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認知症による物盗られ妄想(被害妄想)に対する対応とは

 

 今回は具体的な事例として、認知症を原因とする物盗られ妄想と被害妄想の対応に関して書きます。物盗られ妄想は「被害妄想」の中に含まれますが、今回は便宜上、この2つを分けて説明させていただきます。

※物盗られ妄想とは誰かが自分の荷物を盗ったと妄想することです。

 私が勤務するデイサービスには、トシ子さん(81歳)と言う人が週に3日来所されてます。来所されると顔を認識してる職員に対しては笑顔を見せてくれます。普段は大人しいトシ子さんですが、妄想の症状が現れる時には人が変わってしまいます。

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被害妄想のトシ子さん

 毎回、トシ子さんは昼食で使用したお皿を拭いてくれるお手伝いをしてくれます。しかし、時々、職員に言い寄っては、「私の目の前にいる人が、私の事ばっかり見てるんだけど?なんか気持ち悪いのよね~」と職員に訴えて、違う部屋へと逃げてしまう事があります。実際に何もされていないのに「何かされるんでは?」と思ったり、自分に危害を加えるのではないかと心配されるのも被害妄想の表れなのです。

 トシ子さんは、機嫌が悪いときは「あの人にやらせないで、なんで私ばっかりにさせるの?意地悪いね」と言う時もあれば、「あの人にやらせて、なんで私にやらせてくれないの?」と言う日もあります。真逆のことを言っているのですが、本人は当然気づいていません。

被害妄想のトシ子さんの対応

 被害妄想が出た時にはその都度、近くで寄り添ったり、一緒に別部屋でお話をしたり、パズルをしたりと落ち着くまで向き合います。落ち着いた時には「トシ子さんが、お皿を拭くのが凄く丁寧だからつい私もお願いしてしまうんですよ。もし、お皿拭きが大変なら言ってくださいね」と、ひと声かけると不思議と機嫌は直り、また、座って仕事をしてくれます。

 このように褒めるなどのプラスの内容を伴った声かけの対応を念入りにしてあげるのも技の一つです。誰でも褒められたら嬉しいと思うように、認知症のトシ子さんも褒めてあげると喜んでくれます。

物盗られ妄想を起こさせないための対応

 ある日の利用日、朝一番の入浴でした。トシ子さんのロッカーまで一緒に行き、荷物を持ってもらい、脱衣所に入ります。これはトシ子に物盗られ妄想があるからであり、介護職員が勝手に荷物を持ってくると疑われることへの対応です。

 カバンの中から新しい下着を出す際にもトシ子さんの前でカバンを開けます。勿論、開ける際はトシ子さんに了解を得てから開けます。それが物盗られ妄想に対しては安心、信頼される上での対応だからです。

 荷物のチェックをしていくと、たまたま下着一式がなく、その理由をトシ子さんに聞いてみると「嫁が私の下着を隠したんだな!!」とお怒りモードになりました。実際のところは同居しているお嫁さんには全く罪はなく、妄想によって作りあげられてしまったのです。「家に帰ると私が着ていた服を全部嫁が盗ったいたのよ~、あんな汚れてる服を売ったりするのかね~?」と話していることもあり、物盗られ妄想の対象は完全にお嫁さんのみとなっています。息子さんが盗ったとは一回も聞いたことがありません。

物盗られ妄想が起こった後の対応

 トシ子さんも場合もそうですが、物盗られ妄想により「私の荷物がないの!!」と言ってきても否定はせずに受け止めます。「一緒に探しますから、安心して」と優しく話し、実際に落ち着かれるまで側にいてあげるのが1番の方法です。否定をしてしまうと相手が混乱してしまいます。

 そして、例え介護者が先にその失くしたと言っている物を見つけても手に取らないことが賢明です。「やっぱり、お前が盗ったのか」となる場合があるからです。ですので、先に見つけた時にはさりげなくその場所に誘導をしてください。「あそこを探してもらえますか」と言って、認知症の人に見つけてもらうのです。手間はかかりますが、こういう対応を心がけてください。

まとめ

 物盗られ妄想や被害妄想などの妄想は認知症によって起こるわけですので、否定したり、怒ったりしても何も解決しません。介護者はそのような方とお付き合いするので大変ですが、認知症の本人も「なぜ私の物を盗っていくの?」と苦しんでいるのです。これは妄想上のことですが、本人の中では「実際に起きていること」なのです。

 物盗られ妄想の対象人物は自分に過去に被害を与えた人物、嫌な記憶を与えた人物が多いように感じます。トシ子さんの場合はお嫁さんがターゲットとなってしまっていますが、以前からお二人はあまり関係が良くなかったと聞いています。嫁と姑は今も昔もそういうものだとは思いますが。家族で介護をする事は苦労の日々ですが、なりたくてなった訳ではない認知症ですので、必要以上に責めるのは酷なように思えます。

 トシ子さんは今でも「私、バカなりに頑張ってるでしょ?」と利用日の時は明るく話して、笑顔を見せてくれてます。

[参考記事]
「認知症の周辺症状はどのような症状なのか」

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