「失行」とは、字のとおり目的の動作をしなければいけない時に、その目的の動作が出来なくなる状態を言います。失行は認知症の中核症状ですので、認知症の人に現れやすい症状です。
失行の種類と症状
失行とは、運動機能は正常なのに、その動作が実行できない状態です。失行は種類によっていくつかに分けることができますが、今回は着衣失行、観念失行、観念運動失行、構成失行、肢筋運動性失行について説明します。
★失行の種類★
着衣失行:
シャツの袖に足を通したり、服を割烹着のように着ようとしたりと、服を着たり脱いだりができない症状です。
観念失行:
物や道具を順序立てて上手く使いこなせない状態です。例えば歯を磨くには歯ブラシを持って、歯磨き粉を付け、口に入れて歯を磨くという動作が必要ですが、この連続した工程を行うことができません。
観念運動失行:
無意識にはできるのですが、「私の動作を真似してください」と言っても、その動作ができません。例えば食べる動作を真似させて、食べさせようとしても難しいです。
構成失行:
空間を把握する能力が失われているため、図形や絵が上手く描けなくなります。また、空間を捉える力が弱いため、何でもない場所で転んだり、本棚に本を順番に並べたりという動作ができなくなります。
肢節運動性失行:
足や手の動きがスムーズではない状態ですので、歩く動作が不安定だったり、服のボタンを留めたりができなくなります。先ほど失行について「運動機能は正常なのに目的の動作ができない」と書きましたが、肢節運動性失行は実際に手足が動かないことから起こる症状です。ですので、失行に含めるかどうかは意見が分かれます。
失行に対するサポートと対応方法
失行の症状が現れると、介護者のサポートが必要になります。ここでは、5つのケースを取りあげます。
ケース1「観念失行の対応・口腔ケアー」
「歯磨きしましょう!」と声掛けすると、失行のある認知症の人は「はい」と返事をしてくれますが、歯ブラシを手に持っても歯磨きはできません。歯磨きをする一連の行為を実行できないため、歯ブラシに歯磨き粉を付け、口の中に入れ、少し動かすという段階までお手伝いをします。
ケース2「観念運動失行の対応:食事中の介助」
食事の時に、箸を持つが食べ物を口まで持って行くことが出来ないときに、「はい、箸で食べてください」や「私の真似をして、箸で食べてください」と言っても難しいので箸を使って口に入れるところまで介助する必要があります。
ケース3「着衣失行の対応:朝の着替え」
失行のある認知症の人のお部屋に行くと、ズボンを上着として着ようとする場面をよく見ます。「私、今、着替えてるんだから‼」と本人は話します。
本人が自力で着替えようとする意欲があることは、とても良いことだと思います。ですので、「それズボンだよ!違う」と、すぐに否定しないで「〇〇さん、下は何を履きます?一緒に選んでもいいですか?」と声掛けをして服を一緒に選んでみたり本人に寄り添うケアーが必要です。
又、今日着る服を前日に一緒に準備しておくことも良いことです。本人が、「ボタンが無い服がいい」「着やすいから」と話されるケースもありますので、一緒に服を選ぶのがいいかと思います。本人の残存機能を衰えさせない援助が必要です。
ケース4「肢筋運動性失行の対応:歩行介助」
歩行時、最初の一歩がなかなか出ないからといって、すぐに車イスにのせて移動するのは歩くと言う残存機能を低下させる原因になります。転倒予防で車イスを使用することは良いことですが。
最初の一歩がなかなか出ない場合、「右足から行きますか?」と声掛けをして、患者様のペースに合わせて介助する必要があります。
また、服のボタンを上手くはめることが出来ない患者様に使い捨てのディスポ手袋をしていただくと、ボタンをしめることが出来たケースもあり、手袋は指が滑らないと好評でした。
ケース5「構成失行の対応:段差」
肢筋運動性失行もそうですが、構成失行のある認知症の人は些細な段差に躓くことがあるので、転ばないような配慮が必要になります。転んで骨折でもしたら寝たきりになり、認知症が進行してしまう原因になります。
[参考記事]
「認知症の中核症状とはどのような症状なのか」
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