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認知症の周辺症状である「多幸」とは。娘が死んでも笑顔

 

 Fさんはいつもニコニコ笑顔で過ごされています。何をするにも笑顔で過ごされており、施設の人気者です。

 70歳で認知症と診断されたFさんは夫にも先立たれ、娘さんたちは遠方で家庭を持たれており、Fさんは自分の生まれ育った地元を離れたくないとの希望だったこともあり地元の特別養護老人ホームに入居されました。

 入居以前のFさんは誰にも常に厳しく、直ぐにきつめに注意することで近所でも有名でした。元々学校の先生だったために何か悪いことを見つけると直ぐに注意していました。間違った行為ではなかったのですが、小さな子供に対しても同様の対応であったために煙たがられる事もあったそうです。

 そんなFさんですが認知症と診断されて少しして心境の変化なのか厳しくすることが見られなくなりました。逆にご飯を食べるときにも排泄をするときにもいつもニコニコ笑顔で過ごされており、介助者も楽しく介助することができ、介助しやすい人と言うのが私たちの印象でした。

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悲しくないの?

 そんなFさんですが私たち介助者も月日が流れる内に違和感を覚えていくようになったのです。笑顔で楽しく過ごされているのは良いことなのですが例えば朝起床の声掛けにお部屋に訪室した際に普通なら起きたときに眠そうにしていたり、不機嫌であったり、機嫌が良かったとしても少し笑顔くらいなのですが、さっきまで寝ていたはずなのに起きたと同時に満面の笑みで笑っているのです。

 「こんなに笑顔っておかしくないか」という疑念が出始めてきました。

 そんな時に起きてしまったのです。

 Fさんには3人の娘さんがいるのですが、県外で結婚し生活されていた長女が交通事故でお亡くなりになりました。

 最初電話が掛かってきた際にFさんにどのように伝えれば良いのか悩んでいました。Fさんは娘さんを誇りに思っており、長女さんが自分と同じ学校の先生になったこともあり、良く職員との会話の中で「長女は勉強が得意だった」などの話をされていました。ですので、亡くなったことを伝えても大丈夫なのだろうかと思っていました。

 他のご利用者様で同様の事がありましたが、その時には事実を伝えました。そうしたところ、それまで楽しく過ごされていたのに、それをきっかけに塞ぎ込んでしまい、全くご飯を食べなくなりました。そして、そのまま入院し亡くなられた事が過去にあったのです。

 ですので、Fさんもそうなるのではないかと思ってしまい、どうやって伝えるのかを悩んでいたところ、次女と三女さんがお葬式をやるためにFさんを迎えに来られました。

 亡くなられたことを伝えきれていないことをお話しすると納得され、ご家族から伝えてもらったところ、お部屋からご家族さんの怒鳴り声が聞こえてきたのです。

 急いで行ってみると娘さんがFさんに向かって「姉さんが死んだことがそんなにうれしいの?最低」と怒鳴りつけていたのです。Fさんを見ると、本来は悲しくなるはずなのに笑顔でニコニコされていたのです。

 その時これって認知症の周辺症状か何かではないのかと気付いてしまったのです。これまでに感じたことをご家族に説明し、医師に相談する必要があるとお話しし、その場は収まりました。

 次女は遠方に住んでいたこともありFさんのお見舞いなども殆ど来れておらず身の回りの事は長女がされていたため、Fさんが認知症と診断されてから、よく笑顔でいることを知らなかったそうです。ですので、悲しい状況なのに笑っていたため怒鳴ってしまったそうです。

多幸とは

 診断の結果、多幸ではないかとの事でした。たくさんの幸せ、常に楽しいと感じるという良い言葉ですが医学では異なります。

 原因なんらかの影響で脳細胞が死んでしまったり、働かなかったりすることで物事を難しく考えれなくなる状態のことを指します。感情障害と言われることもあります。

 つまりは本人も何が楽しいのか嬉しいのかが分からないのに常に笑っているのです。感情のコントロールが出来ていないとも言えます。そう考えるとFさんのこれまでのニコニコ笑顔で過ごされていることも納得がいきます。

 話は逸れますが、るろうに剣心というアニメに瀬田宗次郎という人物がいます。彼は剣士なのですが、いつもニコニコしています。闘っている時も、人を斬った時も笑顔なのです。Fさんをみていると瀬田宗次郎を思い出してしまいます。

多幸への対応

 多幸は脳細胞が死んだり動かないことが原因であり、物事を難しく考えれなくなっています。簡単にいえば楽天的なのです。ただ幸せでいること、笑顔でいることが悪いことではありません。

 「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しいのだ」という言葉があります。笑うことで幸福ホルモンが分泌され落ち着いたり気分が良くなったりします。また、楽しく感じる、笑っていることで免疫力が高くなりますので長生きすると言われています。

 治療方法として何故脳細胞が死んでいるのか動かないのかが人それぞれです。脳の損傷や薬物治療の副作用でもなると言われています。まずは医師に相談し何が原因なのかを探っていくところから始めましょう。

 施設で出来る対策として脳が上手く動かないのであれば活性化させるように介護するしかありません。例えば天気の良い日に外に出て日光を浴び、散歩をするだけでも脳は活性化されます。他にも早寝早起きをすることで自律神経が良くなるのでこちらも効果的です。

 個人的には多幸は周りの迷惑をかけている訳ではないでの、治療する必要はないのではないかと思っています。Fさんは現にいつもニコニコしていることで施設でも人気者です。介護する人、入居している人共に、Fさんのことを好きです。

 いつまでもFさんには笑顔でいて欲しいと思っています。

[参考記事]
「認知症の周辺症状はどのような症状なのか」

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