一晩中徘徊してしまうKさん95歳男性のお話をします。
夕飯が終わり、他の利用者様も各自お部屋に戻った20時頃、フロアはとても静かになります。そこからKさんの活動は始まります。辻褄の合わない独り言を言いながら、廊下を端から端まで歩き、時には他者の部屋へも入ろうとしてしまうのです。
そして、ナースコール対応に追われている職員の後ろをぴったりと付きまとってはブツブツと何かを話しています。他者のオムツ交換のために部屋に入る時ですら、一緒に中に入ろうとする為職員は困り果てていました。
何がしたいのか、目的は何かを探る
認知症の周辺症状には、全て理由があると捉えた上で、なぜ徘徊するのか、なぜあの時間なのか、を探ります。
夜間に活動的になるからと言って、決して昼間に寝てばかりいるわけではありません。Kさんは95歳、毎日リハビリ歩行や外への散歩を行なっている為、同年代からしたら活動量は多いです。
Kさんがここにくる前までの環境、習慣はどうだったのか、そこにヒントがあると思いご家族にお話を伺いました。
女系家族であるK家の唯一の男、kさん。常に奥様や娘達のことを気遣っていた様で、娘さん達からしたらちょっと口うるさいお父さん、だった様です。また几帳面な性格なので、寝る前には必ずKさんが戸締り確認をしていたそうです。
また、会社では某大企業の経理を任されていた重役さんであり、人事管理も行なっていました。
これらの話から、「自分がしっかりと守らなければ」と、強い思いがあるのだと感じました。徘徊の目的は戸締り確認や他者(家族や人事時代の職員)の安否確認をしたいのではないかと考えました。
目的が戸締り確認であると仮定した上で、夜の行動を観察しました。廊下のカーテンを閉め直したり、持っている杖で窓を軽く叩いてみたり、鍵のかかった窓を開けようとしてガタガタ音を立てたり…そして、独語に耳を傾けると「よし。丈夫なガラスだ」「ここは簡単にいけそうだぞ?」と、セキュリティ面の確認をしている様でした。
どうやら、戸締り確認が目的であることは間違いではない様です。
目的を解決する手助けをする
偶然通りかかった風を装い、kさんに「戸締り確認ありがとうございます」と声を掛けてみました。すると、「ホテルの人ですか?いやいや、そちらもご苦労さん。まだ寝ないのかい?」と。
認知症の方とのコミュニケーションのコツとして、相手の世界観、価値観に合わせることがひとつのポイントです。今のKさんは、老人ホームにいるとは思っていない様で私のことも、職員とはみていませんでした。
ですので、「私もここの戸締り確認したら、寝るつもりです」と話し、しばらく一緒に鍵の確認、カーテンの閉め直しなどを行いました。すると、しばらくして本人から「寝ようか」との言葉が出ました。そのままスムーズに自室まで行き、その日は朝までぐっすりとお休みされました。
この日以外にも同じ様な対応をした事で、だんだんと夜中の徘徊が減りました。
個人を理解する事の大切さ
当然認知症になる前にはその人個々の色んな人生や体験がありました。その経験があって今の利用者さんがいるという事を、改めて認識させられました。
周辺症状は、その人の生活歴を掘り下げ、理解すれば解決する問題が殆どです。
[参考記事]
「認知症による徘徊の対応方法を4つ紹介します」
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