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頻回にナースコールを押す認知症の人への対応事例

 

 Yさん(96)はアルツハイマー型認知症を持った女性でした。ご高齢による筋力の低下で、移動は車椅子を使用していました。日中は食事や入浴時以外は、ベッドにて休まれていました。認知症による記憶力低下が顕著に見られてはいましたが、とても穏やかな性格で本当に可愛らしい女性でした。

 認知症とともにご高齢のため、自宅で過ごされるのは困難ということもあり、有料老人ホームに入居されました。老人ホームでの生活を嫌がる様子は全くなく、「自分の家」と言う認識を持って下さっていました。

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【毎日消灯すると頻回になるケアコール】

 毎日、夕食が終わり居室に戻られるとナースコール(ケアコール)を頻回に鳴らしていました。日中はほとんどナースコールを押さないYさんですが、夕食後に居室に戻ると必ず鳴らします。

 ご高齢による難聴もあり、ナースコールだけでは会話が出来ない為、ナースコールがなる度に訪室して用件を伺っていました。訪室して用件を伺うと就寝をする事への拒否等ではなく「ご飯食べた?」とか「今、何時?」など、特に身体的にも精神的にも急を要する内容では無かったのです。「認知症だから、ご飯食べたのを忘れちゃったのかな?」と思い、結局毎日ナースコールにて訴えてくる話に答えを返すだけでした。

認知症だから」は大きな間違い

 「認知症だから忘れちゃったのかな」と、「認知症」と言うフィルター越しに接していましたが、それは後々大きな間違いだったと気づきました。

 ナースコールを何回も何回も押すYさんでしたが、一定の時間になるとYさんは眠くなるのか、先ほどまでのナースコールの嵐が無くなるので、スタッフは「あともう少し」と耐えてしまっていました。その「耐える」行為がよくなかったのです。耐えてしまった事により、ケアスタッフに精神的負荷がかかるようになり、スタッフの不穏感がYさんにも伝わってしまい、元々頻回だったナースコールがさらに増えてしまいました。

頻回の理由が判明

 「認知症だから忘れやすい」のはありますが「なぜ、この時間になると鳴らすのだろうか」と考える事にしました。しかし、身体が苦しいわけでもどこか痛いわけでもない、精神的に落ち込んだり興奮したりして寝たくないわけでもないYさんへの対処をどうしたら良いか分かりませんでした。

 ナースコールを頻回されるYさんに対し「なぜ、こんなに何度も押すのか」ともう一度考える事にしました。Yさんの言動をよく見つめ直してみたら、一つ理由と思われる事がわかりました。

 ケアスタッフにコールをしているわけではありませんでした。息子様に「電話をしている」感覚で、コールを鳴らしていたのです。ナースコールのボタンを押すと、息子様に電話が繋がると思っていたようです。Yさんが求めていたのは、ご飯を食べたかどうかの確認でも時間の確認でもありませんでした。「ご飯食べた?」の主語は息子さんだったのかもしれません。「〇〇(息子さんの名)、ご飯はもう食べたのか」ということだったのでしょう。

 Yさんを騙す形にはなってしまいましたが、一度お試しで男性スタッフが息子様のフリをしてナースコールに出てお話をすると、昨日までのコールが嘘みたいに一度で終わり、その後Yさんの様子を伺いに行くと、「諦めた様子」ではなく「満足された様子」で熟睡されていました。その後、息子様に許可をいただき、消灯後のナースコール(電話)のみ男性スタッフが対応して息子様のフリを続けました。

 男性スタッフが不在の日は「仕事で帰ってきていないから、戻ったら部屋行くように言うね」と家族のフリをさせていただき、Yさんへお伝えしたところ、今回のYさんへの対応はYさん自身にとって正解だったようでした。その日を境にコール回数が激減し「息子と話せた」と日中も喜ばれていました。

 ナースコールは「緊急コール」と呼ぶ施設もあります。ですが、今回の事例のように頭ごなしに「緊急コール」と位置付けるのではなく、スタッフ自身が仕事の垣根を越え「おばあちゃんと電話する」と言う感覚で出てみるのも一つの解決策となる場合があります。

 今回はナースコールを頻回に鳴らす認知症の方への対応事例をご紹介させていただきました。

[参考記事]
「夜間になると不穏になる認知症の人への対応事例」

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