救急二次病院に勤務していた中で、様々な認知症の患者様に携わってきました。沢山携わってきた認知症患者様の中でも、思い出に残る患者様の紹介をします。
入院時の患者様の状態
80歳代の認知症のA氏(男性)は、心疾患を患い、入院時より点滴、酸素治療を開始しました。会話は出来て、自覚症状もなく、本人はニコニコされていました。
会話はできても、認知症により治療の意味が解っておらず、何度も酸素と点滴を外されました。点滴を抜いたら、新しく入れ替えるのですが、酸素は簡単に外せます。何度もベッドサイドに行って酸素を装着するのですが、つきっきりでないと、酸素吸入もできません。シリンジポンプで微量用の注射もしていましたが、何回も点滴を抜いてしまいます。
酸素を外し、点滴を自己抜去された場合の看護
A氏は、酸素カニューレを使用していました。認知症により、酸素吸入の意味が理解できず、酸素カニューレを何回も外されました。カニューレの場合はカニューレの固定を上にしたりして、手の届かないところに持って行くのですが、簡単に外してしまいます。酸素だけでなく、点滴治療の固定も気持ち悪いのか、何度も外されます。
酸素と点滴を外されては、治療が出来ません。治療のために、ご家族のご理解を得て付き添って頂く場合もあるのですが、ご家族の都合がつかない場合には、抑制をします。抑制時にはご家族の同意を得て、同意書にサインをしていただきます。
病院での認知症患者様の抑制について
以前報道で、介護施設での抑制が問題になっていました。認知症の患者様だからと言って、人間である患者様を縛り付けるのは良くないとのことです。しかし、医療の現場においては一人の認知症患者様だけに対応する人数が確保出来ていないのも事実です。
特に夜勤帯は、少ない人数で業務をこなさなくてはなりません。認知症にて治療にならない場合の抑制において、昼間は抑制解除しても、夜勤隊帯は抑制するケースも沢山ありました。
抑制は、クッションのついた部分を手首や足首にあてて縛り、クッションに縫い付けられた頑丈なひもでベッドに縛るのです。ひと昔前は、タオルを手首に当て、紐で縛っていましたが、タオルがずれて皮膚に損傷をきたし、外れやすいなどの問題があり、医療用の抑制帯を使用するようになりました。
認知症患者様が、抑制解除をされる場合の看護
自分が抑制されたら、きっと解除出来ないだろう抑制帯を、A氏だけでなく、認知症の患者様は簡単に解除されました。A氏は痩せていたこともあり、身体を上手に動かし、気が付けば抑制帯を外しているのです。しかも解除する時間は早いです。抑制している先から、外しにかかっています。
抑制帯を外した後は勿論点滴と酸素を外します。その度に、酸素を装着し、点滴を入れ替え、抑制帯を縛り直すのです。
認知症患者様に何度も点滴を抜かれては治療になりません。夜勤では、点滴の入れ替えばかりに時間をさくと、他の業務が遅れていきます。
認知症患者様に夜勤で点滴を抜かれない為に
認知症の進んでいるA氏に抑制解除され、酸素を外されるのはどうしようもありません。
点滴はすぐに抜管されるので、足背に固定していました。点滴だけは外されないように点滴のルートを太めのテープで固定しました。さらに靴下をはかせ、靴下と皮膚をテープで更に固定しました。テープを簡単に外せないようにするための時間稼ぎです。
他の患者様を観察して戻ると、A氏はテープを外しにかかっていましたが、この対策では点滴は抜かれずに済みました。
認知症と一言にいっても、患者様一人一人、個々に症状が違います。認知症のある患者様が、どういった症状の傾向性にあるのかをよく観察し、個人・チームで対策を練り評価する。評価をしたら、計画をたてて、看護の実行に移します。A氏の認知症はかなり進んでいましたが、抑制してもニコニコされていた分、看護側・家族側は救われたように思います。
おわりに
A氏は、どんなに抑制されてもニコニコされて、怒ったりすることはありませんでした。認知症になって長かったので、ご家族の受け入れも良かったです。
認知症になったばかりのご家族だと、なかなか受け入れが出来ません。自分の家族が認知症になるのは、ショックな事です。これからもご家族が認知症を受け入れられるように、見守りながら看護を続けていきます。
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