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認知症による徘徊への対応。情報を集め、徘徊の理由を知る

 

 この記事では、日常的に徘徊を繰り返す介護老人福祉施設の入居者に対する対応事例を紹介します。
 
 Fさん(78)は、アルツハイマー型の認知症を持った女性です。昼夜問わず徘徊を繰り返しています。歩行には何も問題がなく、スタスタとひとりで歩かれています。

 お食事やお手洗いなどはご自身で行うことができますが、食堂やトイレの場所がわからない、時間や場所の感覚がわからないなど日常生活に支障をきたすことが多く、周りの入居者とトラブルになることもありました。

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昼も夜も繰り返される徘徊

 Fさんは、ほぼ一日中徘徊を繰り返します。職員の声掛けにより一時的に椅子に座られても、数分後には席を立ちまた歩き始めます。体は小柄ですがいたって健康なため、いつまでも歩き続けてしまいます。

 徘徊の理由は、「家に帰りたい。」というものが多いのですが、「子どもを探している。」「泥棒が出たから警察に行こうと思っている。」というものもあり、いつも同じ理由で徘徊しているわけではありませんでした。

 最近では、疲労のためか時折足を引きずって歩く様子が見られるようになりました。足を引きずっていては、歩行時のバランスが崩れ転倒する危険が高まります。また、足に何らかの不具合が生じている可能性が高く、足に負担をかければ症状が悪化してしまうのは明らかです。

 このまま徘徊を続けていくのは危険だと職員は判断し、Fさんの徘徊の対応について検討することになりました。

Fさん(認知症の人)の情報を集める

 認知症の人が徘徊する理由は、ひとりひとり違うものです。その方の気持ち、考え方、今までの生活スタイル、環境などあらゆる方向からその方自身を捉え、原因を考えることが大切です。

 徘徊している人に「危ないから座っていてくださいね。」と声をかけたところで、それは一時的な解決にしかなりません。徘徊する理由が解決していないため、また歩き始めてしまいます。Fさんをより深く知るとともに、日ごろの行動パターンをよく観察し、徘徊する理由を考えなくてはなりません。

 Fさんは東京育ち、結婚して子育てをしながら仕事をしていました。性格は社交的で誰とでも仲良くお話しすることができます。歌うことが大好きで、歌が上手。機嫌のよい時は、鼻歌交じりで徘徊されていました。

徘徊時のFさんの気持ちを知る 

 Fさんの情報を集めたら、徘徊しているFさんと会話して、徘徊する理由、その背景にあるものを探しました。

 ある日、施設玄関のガラス窓に手をついて外を眺めているFさんに声を掛けました。この時のFさんの表情は少し険しく、イライラしている様子でした。

 「こんにちは。何かお困りですか?」少し声のトーンを落として声を掛け、そっと近づくと、「子どもを探しているの。小さい子なんだけど見なかった?」と困った様子でお話しされました。

 「分かりました。それは心配ですね。見つけたらFさんにお知らせしますね。」と伝えると、Fさんはぱっと笑顔になり、「ありがとう。本当に助かるわ。よろしくお願いします。」と穏やかにお話しされました。そのあと少し談笑し、Fさんは談話室に戻りました。

情報を共有して対応する

 2週間程度に渡り、いろいろな職員が声を掛け、Fさんの徘徊の理由を検討しました。

 その結果、幼稚園や小学生の交流会の後に徘徊が多く見られること、男性職員とはあまり会話が続かず表情が硬いままであることなど、いくつかの特徴があることがわかりました。

 この結果をふまえ、外部との交流があった後にはFさんの様子観察を行うこと、Fさんの徘徊時は主に女性職員が声を掛け、リラックスしてもらうなどの対策をとることが決まりました。

 それまではずっと徘徊を繰り返しているFさんでしたが、徘徊が始まっても落ち着くまでの時間が短くなり、足を引きずって歩く姿を見かけなくなりました。

その方に寄り添うこと

 私の施設は、入居者と職員の信頼関係を築くために会話を多く利用しています。入居者とすれ違う時には声を掛ける、用事がなくても話しかけるといったコミュニケーションを通して、体調管理や変化の早期発見に努めています。

 今回のFさんの事例は、Fさんとの会話、それもひとりの職員だけでなく複数の職員からのアプローチが活かされた良い例だと思います。

 多くの視点から問題をとらえ、より良い解決策を探すことが大切だと感じました。

[参考記事]
「帰宅願望や徘徊を繰り返す認知症の人の対応には嘘をつくことも大事」

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