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徘徊による転倒がある認知症利用者への対応。役割を与えることで改善

 アルツハイマー型認知症で入所中のAさん(80歳代・女性)です。元々は息子夫婦とともに暮らしていましたが、ご家族の希望で施設入所となりました。性格は穏やかな方で、笑顔が素敵な女性です。

 Aさんは筋力の低下で歩行が不安定であり、付き添いが必要な方です。日中は主に車椅子に乗車し、テレビを見たりして過ごしていました。

 Aさんの問題点は、徘徊をしようと急に車椅子から立ち上がってしまうところです。理由を尋ねると、「◯◯さんに呼ばれている」と言い、車椅子から立ち上がり、歩いてどこかに行こうとしてしまいます。

 家族に伺うと、「◯◯さんっていう人なんていなかったと思います。」とわからない様子でした。Aさんに尋ねても、うまくコミュニケーションが図れず、聞くことはできませんでした。

 Aさんは歩行が不安定です。一人で歩行してしまうことで、転倒するリスクがあります。自宅でも一人で歩いた際に、転倒してしまったことがあります。

 スタッフ間で、Aさんの転倒予防について話し合いました。「車椅子に乗車する際は、ベルトをしてもらおう」という意見も挙がりました。実際にそのように対応しました。ベルトがあることで、確かに立ち上がる行動を抑えることはできました。

 当然、Aさんはしきりに「これ(ベルト)をはずしてください」と言っています。ベルトを使用することは、介護者側の都合で危険と思われる行動を「抑え込もう」とする行為です。当然、Aさんは強いストレスを感じてしまっていることが伺えました。

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どのように対応したか

 Aさんと話していると、昔は手芸関係の仕事についていたそうです。「細かい作業が得意なのよ」とも言っていました。そこで思いついたのが、Aさんに何か作業を依頼するということです。

 Aさんが徘徊してしまうのは、手持ち無沙汰になっていることも、原因の一つなのではないかと考えました。Aさんが何か役割を持つことで、その時間は作業に集中します。すると結果的に危険な行動が減らせるのではないかと考えました。

 私達の施設では、清潔ケアを行う際のふき布を4つ折りにして準備をしています。Aさんには、このふき布を4つ折りにしてもらう作業を依頼しました。つまり役割を与えた訳です。Aさんは「私に任せなさい」と言い、黙々と作業をし始めました。その間、立ち上がったりといったことはなく、もちろんベルトも外しています。

 ふき布の減り具合を見計らい、Aさんに声かけすることで、一人で立ち上がることを防ぐことができました。

まとめ

 施設に入ると、スタッフは忙しく動いています。それに比べて、逆に利用者さんは時間を持て余してしまうことが少なくありません。その結果、刺激もなく認知症状を悪化させている可能性も考えられます。

 何か作業に集中することで(役割を与える)、Aさんにとって良い刺激となり、かつ集中することがあることで危険な行動を防ぐことができました。

 施設のスタッフは、利用者の安全を守るという名目で、つい行動を「抑える」という方向に向きがちです。Aさんが転んでしまうことは、責任問題となってしまうからです。そういった背景もあり、つい反射的に抑え込もうとしてしまう傾向にあるのかもしれません。

 しかしそうではなく、「意識を他のことに集中する」ことで危険と思われる行動を防ぐことができました。「抑えること」ではなく、「何かに集中する」環境を提供することも一つのケアなのかもしれないということを学びました。

[参考記事]
「認知症による徘徊への対応。情報を集め、徘徊の理由を知る」

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