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居室内で転倒が続く認知症の人に対する対応の成功例と失敗例

 

 老人介護施設になかで歩行器を使用しているIさん。変形性膝関節症があり、軽度の膝の痛みもあるために、がに股歩きで時折ふらつきもみられる。歩行器はうまく使う事が出来るが、認知症もある事から使ったら使いっぱなしで、通路真ん中などあちこちに置いてしまい危険。

 日中はフロアで過ごすことが多く、職員の目があるので転倒する事はほとんどない。しかし、夜間居室に入ってしまうとIさんの行動を掴むことができず、居室内での転倒が2回続いていた。そこで、フットセンサーを使用する事になったが、センサーが鳴ることで職員が部屋を覗きに行くことがストレスで、大声をあげ職員を叩く行為が見られるようになり、表情も1日通して硬くなってしまった。

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再び転倒

 夜中にセンサーが鳴り職員が部屋を覗くと、Iさんは洗面台に手をついて鏡を見ていた。職員が覗いているのに気付き、「誰よ!覗いて!私が何したって言うのよ!」と興奮して、職員に摑みかかろうとしたが、足元がふらつき尻もちをついてしまった。

 最近のIさんの様子を見て、フットセンサーの継続は出来ないと判断し撤去する方向となるが、センサーがなくなる事でまた転倒が続くのではないか、と職員より不安の声があがった。

1人でも出来る様な、環境を整える

 まずはIさんの夜間の行動、それぞれの転倒した時の様子を紙に書き出し、職員で振り返ってみることにした。センサーをつける前の転倒では、2回とも同じ時間帯22時前後であり、いずれもトイレの前での転倒であった。

 Iさんの習慣として、夕飯後は自室にこもりテレビをしばらく見てから寝ている。おそらく22時前後にテレビを見終え、寝る前のトイレに行くところで転倒しているのでは無いかと推測した。そこで、巡視時には歩行器を必ず本人の近くに置くことを徹底し、Iさんが室内でも歩行器を使用しやすい様、居室内の机を小さい物に変更し、通路の広さを確保する事で、様子を見ることにした。

 しかし、しばらくして再び転倒をしてしまう。場所は居室内、時間帯はやはり22時前後であった。転倒した時の状況を観察すると、歩行器がトイレとは反対の方向を向いて、尻もちをついているIさんから離れた場所にあった。そして転倒した直後に、本人より「フラフラっとしてね、机に掴まりたかったんだけど手が届かなかったのよ。転ぶなんて恥ずかしい…」との言葉があった。

 どうやら、居室内テレビからトイレ、ベッドからトイレへは距離が短いために歩行器を使うのが億劫で、職員が良かれと思って置いている歩行器を、Iさんはわざわざ避けて通っているようだった。

 そこで今度は、歩行器は居室外で使うものとし、居室内はIさんがつたい歩きが出来る様にベッド、テレビとトイレの間に手すりを設置し、机を以前の大きい物に戻してみた。

 すると、転倒は減り、センサーも撤去できた事で職員の訪室頻度も最小限になり、以前の穏やかなIさんへと徐々に戻っていった。

今回の関わりを通して

 Iさんの生活習慣や生活導線、歩行能力などが職員間で統一して理解ができていなかったために、その人が出来ることまでもいつのまにか制限してしまったことを、痛感した。

 認知症の方は環境の変化への対応が一苦労であるのに、転倒させたくないと言う事だけに着目し、環境を短い間にころころと変えてしまった事、常に職員が見ている事が、Iさんに大きなストレスとなってしまい、Iさんらしくない行動を取らせてしまった事を反省し、今後のケアに繋げていきたいと感じた。

[参考記事]
「認知症による転倒を防ぐための対応には行動パターンの把握が大事」

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