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無理やりグループホームに入所させられた認知症男性の拒否事例

 

 認知症のSさん(80代男性)はグループホームへ入居される際、娘さんに「ちょとご飯でも食べに行こう。」という嘘をつかれてやって来ました。

 娘さんが自立した後、早くに奥さんを亡くされ、長い間お一人で暮らしていました。Sさんが認知症発症後、娘さんは訪問介護やデイサービスを使用できる様に手配しましたが、Sさんがサービスを受けることを頑なに拒まれ、ほとんど利用する事はできませんでした。

 Sさんはある時、ボヤ騒ぎを起こしてしまったのです。近隣の方の迅速な判断により、火事までには至りませんでしたが、それを機に娘さんはSさんの施設入所を決める事にしました。そしてグループホームへの入居が決定したのですが、肝心のSさんがなかなか家から出ようとされません。そして仕方なく娘さんは嘘をついてSさんを連れて来られたのです。

 Sさんは入居後、嘘をつかれた事に気付かれました。ご自身の荷物をまとめて、ユニットの入口から出ようとし始めました。ユニット入口は常時施錠をしていた為、開ける事は出来ずSさんはそこに立ち続けていました。職員はSさんにお茶をすすめたり、雑談しようとしたり、説得しようとしたりと声を掛けましたが「家に帰る!」「騙したな!」と怒っており話ができない状態でした。

 入居から数日は口も聞いていただけない状態でしたが、Sさんのお好きなコーヒーをお出ししたりと積極的に関わりを持つようにする事でSさんから話をして下さるようにもなっていきました。

 その後も時折、荷づくりして帰ろうとされていましたが、落ち着いて過ごされる時も増えていきました。ただ、その落ち着きは諦めの気持ちから来ているようで、怒りの表情が悲しみの表情に変わっていっただけでした。

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グループホームに慣れてもらうために

 そんなSさんの変化を受け、新たな挑戦をしていく事にしました。今までSさんを外に連れ出す事はどこかに行ってしまうのではというリスクがある為、タブーとされていましたが、グループホームで習慣として行なっていた散歩にSさんもお誘いする事にしました。

 最初のうちは「散歩なら出ない!」ときっぱりと断られてしまう事がほとんどでした。それでもお誘いを続ける事で「あんたの頼みは断れないんだよ。」「あんたしつこいからな・・・。」などと応じて下さる事が出てきました。Sさんは職員の名前は覚えられないながら、職員の顔や性格などは覚えていらっしゃった為、職員とのそんなやり取りは楽しかった様です。

 ある日の散歩時、Sさんと職員とでグループホームから歩いて5分程の公園まで散歩しに行きました。公園では子供たちがブランコで遊んでいました。それを見たSさんはブランコの所まで近づいていくと子供たちが遊ぶ様子をじって見つめています。

 子供たちがブランコを降りると、ブランコに座りぎこちなくですがこぎ始めました。ブランコから転落するのではないかと心配する職員にSさんは背中を押すように頼んで来られ、しばらくブランコに乗っていました。ほんの少しの時間でしたが、ブランコに乗って過ごされました。ブランコを終えるとSさんはヘトヘトになってしまいベンチでしばらく休んだ後、ホームに戻りました。

 そこからSさんは散歩の誘いをほとんど断る事がなくなり、Sさんの方から「公園に行く」と訴える様になりました。職員が散歩に出られない時や雨の時でもその訴えは聞かれる様になりました。

 一時期の様に荷づくりをしなくなっていたSさんですが、ユニットの入り口で立って外に出るのを待つ姿は継続しています。ブランコについてSさんは「スリルがあって生きている事を実感する。」と仰っていました。

[参考記事]
「帰宅願望の強い認知症の人への対応には家族の協力が必要」

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