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帰宅願望の強い認知症の人への対応には家族の協力が必要

 

 自宅で一人暮らしのAさん(80代女性)。自宅で転倒され大腿骨頚部骨折により入院され、退院後、介護老人保健施設へ入所となりました。認知症の症状は1年前からあり、入院先でも現状が理解できず、帰宅願望が強かったそうです。

 入所後は「なぜこんな所にいないといけないのか。家に帰って息子にご飯を作らねばいけない」とシルバーカーを押しながら出口を探されていました(家族は息子さんが一人のみ)。入所フロアへの訪問者がエレベーターに乗るのを目ざとく見つけては同乗し1階へ降りてしまいます。

 元々陸上をされていたという事もあり、歩行速度が速く、来訪者とともに自動ドアを出ようとされる寸前に職員が止めて施設内へ戻っていただくと、さらに興奮し、外へ行こうとされます。なかなか落ち着かないので職員が付き添って施設周辺を歩くというのが常でした。

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帰宅願望への対応

 隣市に住む息子さんは、仕事後の夜間や週末に面会に来られて、ご本人に現状を説明して下さいました。自宅に帰って安全に生活できるように準備をしているから迎えに来るまで待っていてほしいなど、息子さんが話す事にAさんは大納得で、素直に了承されていました。

 しかし、息子さんが帰宅し、同日夕方になると同様の帰宅願望が始まります。Aさんは、日中は居室に一人で過ごされていましたが、夕方になると日中と様子が違い、居室とエレベーター前の往復が始まります。

 そうすると、職員はそっと後方から見守りをすると同時に一階の事務所にも内線で連絡を入れていました。夕方から夜間にかけては施設職員の数も限られる中で、目を配って、施設外に出ていかれて危険な事がないように介護職員以外の事務所職員も協力して見守りを行っていました。

 息子さんも極力、面会機会を持ち、本人との時間を作って下さいました。なかなか他の利用者さんと会話することもなかったAさんでしたが、1か月もすると施設生活に慣れ、他の方と会話されることがあったり、帰宅願望の回数が徐々に少なくなっていきました。

 1階へ来られた時も、以前は自動扉に押し車をぶつけて開けようとされていましたが、職員に出してもらえないかと相談されるようになり、出れないことを理解して入所フロアへ戻るようになりました。そうするうちに在宅へ帰れる準備が整い、試験外泊後に退所され、現在は息子さんと同居されています。

 このケースでは、施設内職員だけではなく、ご家族や在宅の関係者の協力もあって、ご本人の一番の希望である家に帰るという事が達成できたケースでした。認知症による帰宅願望のある利用者様には、「帰れません」と否定したり、「今はここにいて下さい」と伝えるだけでは、ご本人の気持ちを抑える事ができず、かえってより感情的にさせてしまって事態が悪化することもありえます。

 利用者さんの気持ちに寄り添って話を聞く事が解決策の一つにもなりますが、職員は対応に付きっ切りになるので、施設内で利用者さんの情報を共有し、他部署とも協力できる体制作りを普段から準備しておくことが大切です。

 利用者さんのご家族には、施設外へ出ていかれようとする場合の安全配慮のため、入口ドアの自動開閉を停止したりすることをお伝えし、ご理解を得る必要があります。

[参考記事]
「帰宅願望の目的はナンパ?認知症のおじいちゃんの事例」

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