広告

Read Article

認知症による帰宅願望が友人の訪問によって無くなった事例

 

 Bさん(女性)は夫を早くに無くし、40年以上一人暮らしをしています。いつも自宅に友達を招き入れては、お話をするのが大好きな人でした。

 しかし最近脳梗塞を患い、脳血管性認知症になってしまいました。体に麻痺が残る事はありませんでしたが、記憶障害等が見られるようになったり、1日ボーっとして過ごすような日々が多く見られるようになった為、家族は介護付きの有料老人ホームの入居を決断しました。

広告

脳血管性認知症による「まだら認知症」

 抑うつ症状が見られる為、入居してきたBさんは、初日こそボーっとしている状況が見られましたが、翌日からは一変し、非常に強い帰宅願望が効かれるようになりました。

 施設の玄関先で叫んだり、それを止める職員に対して暴力行為を行ったりと、手が付けられないよう状態が何日か続き、またその後ボーっと部屋で過ごしているような事が繰り返されていました。

 記憶障害も見られているので、職員が話をして納得してくれたと思えば、またすぐに同じことを訴えてきたり、そうかと思えば昨日、施設にきた家族とのやり取りをしっかり覚えていたりと、いわゆる「まだら認知症」の症状でした。

 現在の状況に収拾がつかないと判断した為、家族との話し合いを行い、居室になるべく自宅で使っていたタンスや座椅子、テーブルなどを持ち込み、ずっと使っていた布団や枕等も持ち込むように対応しました。

 よく読んでいたという小説や、昔の写真なども持ち込んで、状態の観察を行う事にしました。

なかなか改善しない帰宅願望

 自宅の持ち物を居室に入れた所、最初はじっと自分の持ち物を見ながら何か考えている様子でした。職員が小説や写真の話なんかをすると笑顔で対応してくれる事もありましたが、やはり「帰る」という発言はなくならず、「自宅はここですよ」と案内をしても、納得してくれない事も増えてきました。

 その後Bさんの発言は「ここは家じゃない」と言ってみたり、職員が居室に入ろうとすると「人の家に勝手に入るな」等、まだら認知症の症状がひどくなっているようにも見えました。

 その代わり、普段の生活に刺激が出てきたのかボーっとしている抑うつ的な症状はほとんど見られなくなっていました。自身の居室はどこにあり、食堂はどこなのか、浴室はどこにあるのか等もしっかり理解しています。

 「自宅ではないが自分の部屋がここにはある」と言う事も少しずつ理解しているように見られましたが、帰宅願望は定期的に見られ、職員に見つからないように、玄関を無理やり開けようとしている事もありました。

 職員の間でも、少しずつ慣れていってもらうしかないと、Bさんの状況について見守っていく事で一致していましたが、そんな時にBさんにお客様が来苑しました。

昔からの友人が、感情を安定させてくれる事

 Bさんに三名の友人が施設に訪問されました。「Bさんは元気ですか?」「お会いする事は難しいですか?」と職員に質問しています。

 職員としては非常に難しい選択でした。少しずつ慣れてきている所に、昔からの友人が顔を出したら、また帰宅願望が強くなるのではないか、無理やり友人に連れて帰ってくれと頼むんじゃないかと不安がありました。

 しかし友人に会ってもらう事を選択しました。どうなるか正直わかりませんでしたが、ほBさんも気分転換になるかも知れないとBさんのもとへお連れしたのです。

 Bさんは友人達をみると見たこのない笑顔で友人を受け入れました。

「ここじゃなんだから、私のうちで話そう」と、自分から居室へ招き入れたのです。「私のうちで」と、Bさんは現在の家がここである事をやはり理解していました。居室まで行ってみると、友人たちと楽しそうに話をしています。とても楽しそうに話をしているのです。

 その後、元気なBさんと再会する事が出来た友人たちは、定期的にBさんに会いに来るようになりました。Bさんも友人が来るかもしれないと、部屋の片づけ等をするようになりました。

 時々友人の話を職員に笑顔で語ってくれることもあります。Bさんの精神状態は非常に穏やかになり、帰宅願望もほとんどありません。昔から自宅に友人を招いて話が好きだったBさん。友人が遊びに来るようになり、ようやく居室が自宅になったのだと感じた体験でした。認知症であろうと、なかろうと友人の存在は大きいのです。

[参考記事]
「帰宅願望の強い認知症の人への対応事例」

URL :
TRACKBACK URL :

Leave a comment

*
*
* (公開されません)

Return Top