広告

Read Article

認知症による暴力行為の解決方法は生活リズムを把握すること

 

 認知症患者の多くは、自分自身が認知症を患っている自覚がなく、周囲の人間を敵対視してしまいます。時には暴言で反論し、時には暴力で抵抗します。認知症患者にとっては「自分でできるのにどうして手伝うんだ!」「自分のことくらい自分でする!」という思いがあるのです。

 いわば、介護職員や家族の行動は「おせっかい」な存在。どうすれば良い関係を築きながらケアをすることができるのでしょうか?

広告

認知症による暴力行為

 特別養護老人ホームに入居してきたAさん(男性)は、重度の認知症がありました。意思疎通は困難で、物事の善悪の判断がほぼ出来ず、他者に対する暴力行為が認知症症状の中で顕著に現れていました。

 Aさんは、尿意・便意がなく自身でトイレに行くこともなかったので定期的に職員の誘導でトイレ介助を行っていました。しかし、介助されることを最も嫌っていたAさんはとにかく怒る。職員の介助する手に噛みつき、腕をつねる。そして着衣が濡れている時には着衣交換が必要ですが、その時もAさんの着衣を交換している職員を蹴り飛ばす、なんてことは日常茶飯事でした。

 挙句の果てには、介助により機嫌の悪くなったAさんは廊下に出て他の利用者にも暴力をふるってしまうのです。介護士は、利用者からの暴力は仕事をする上で仕方のないことだと分かっています。しかし、他の 利用者に暴力をふるうとなればそれはまた違う話なのです。

間違えた対応策

 Aさんの他の利用者に対する暴力行為については、ご家族とも何度も話し合いを行いました。しかし、暴力に至っている理由は認知症です。認知症だからこそ解決策が見つからないのです。

 介助を嫌がり機嫌が悪くなるならば、いっそ介助をやめてしまうか?という話にもなりましたが、介助をやめてしまうとなるとトイレにも行かなくなるので紙パンツや尿とりパッドがベタベタになり気持ち悪くなる。そしてまた機嫌が悪くなる、と何をしても最終的には暴力行為に至ってしまうのです。

 Aさんの主治医に現状を相談し、精神安定剤を服用したほうが良いとの診断がありました。正直、私たち職員はその診断結果を聞いて安心しました。「これで誰も傷つかなくなる」そう思ってしまったのです。

 Aさんが精神安定剤を服用しだして1週間が経ち、徐々にではありますが暴力行為が少なくなっていきました。しかし、ある日の夜、廊下からとてつもなく大きな音が聞こえ駆けつけるとそこには廊下に横たわり転倒しているAさんが居ました。唸り声をあげて顔は苦痛に歪ませていました。

 どこが痛いのか聞こうにも重度の認知症のあるAさんから聞き取るのは困難。ベッドへ移ってもらい、ボディーチェックすると右腕が腫れていることに気が付きました。施設内でできる簡易的な処置を行い、翌朝病院受診。診断結果は、右上腕の骨折でした。

 Aさんは、夜中に目を覚まし廊下を歩きましたが精神安定剤の影響でフラフラの足取りで歩き、転倒に繋がったのでしょう。精神安定剤を服用することにより、他の利用者は傷つかなくて済む。しかし、結果的に私たち職員の判断はAさん自身を傷つけてしまったのです。

生活リズムを把握すること

 腕を骨折してもなお、Aさんは自由に施設内を歩きます。主治医と相談し、精神安定剤の服用を中止しました。

 そして、Aさんの機嫌のムラを時間ごとにメモしていくことにしました。すると、Aさんの機嫌のムラが時間により毎日一定であることに気が付きます。起床直後と臥床直前は機嫌がよくニコニコしていました。一方、昼間は周囲の音や他者が気になるのかイライラしている様子が見受けられました。

 そこで、介護抵抗が激しい入浴介助と排泄介助の時間の見直しを行います。入浴介助は朝一番に、排泄介助は、起床時と臥床時に行うことになりました。排泄介助は昼間も1度は行う方が肌のトラブルの軽減につながりますが、Aさんは幸い肌のトラブルが生じたこともなく排尿量も多くはないことからそのような対応となりました。

 一定の介助リズムを続ける、それに加えて自分でできることは自分で行ってもらうよう促す声掛けを行うこと1週間、Aさんは職員に対しても他の利用者に対しても暴力をふるうことはなくなったのです。

 Aさんの生活リズムを把握することでAさんを理解する。暴力の解決策はとても簡単なものでした。

 介護職員・看護師・主治医、それぞれの職種により考え方は異なります。しかし、暴力などの原因や本人の思いを理解することが一番早く問題解決することができるのです。

 ケアの方法に答えはありません。職員と利用者双方が痛い思いや不快な思いをすることなくできるケアが一番の「介護ケア」ではないでしょうか。誰もが持っているプライドを守り続けることが私たちには求められているのです。

[参考記事]
「認知症により暴力や暴言を繰り返し、対応に限界を感じた事例」

URL :
TRACKBACK URL :

Leave a comment

*
*
* (公開されません)

Return Top