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有料老人ホームで入居者同士の恋愛?恋が芽生えた瞬間

 

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有料老人ホームでの出会い

 私が働いていた有料老人ホームは100床あり、1階が食堂、2階が重度の方、3階が中程度の方、4階がほぼ自立の方々が入居していました。

 オープンから3ヶ月でほぼ満床となり、私たちは日々忙しく対応に追われる中で、あるおじいちゃんとおばあちゃんとのステキな出会いがあったのです。

 Iさん78歳。1人でエレベーターに乗ろうとするアクティブなタイプのおじいちゃんです。いつもメガネにラクダ色のニット帽。ポロシャツにスラックスという男前スタイルでフロアの廊下を歩いています。認知症の程度は、受け答えはできるけど誰が誰かはわかっていない。内容もあいまい。かろうじて息子さんの顔だけはわかるといった感じでしょうか。とにかくジッとしていないタイプです。

 そんなIさんがKさん(82歳女性)と出会ったのは、Iさんのフロアにある機械浴をKさんが使用した後、ウォーターサーバーの水で水分補給をしている時でした。Kさんは脳梗塞で右半身まひとなり、日中は車いすで生活しています。軽い言語障害があり、認知症と診断されてはいますが、たまに職員の名前を言ったり、おとといのレクを覚えていたりなど、まだらに覚えている程度です。でも基本、話の前後関係は理解できません。

 Kさんが水を飲んでいるとIさんが「ほほお、おいしそうな水ですなあ。ワシはそんなおいしそうな水は見たことがない」と、急に話しかけたのです。2人はフロアが違うので面識がありません。女学校育ちのオールドミスKさんは驚いた様子でした。しかし「あのぉ・・・これをこうして…」と、KさんはIさんにウォーターサーバーのレバーの動かし方を説明し始めたのです。恋心が芽生えた瞬間です。

 ですが体を動かしてなんぼのタイプのIさんは「ほう!ほうほう!!」と言って、何も飲まずに踵を返し、廊下の散歩に戻ってしまいました。

メガネのオヤジに恋をする

 その時は私も時間に追われているので2人の仲は取り持つことはなく、数日過ぎました。私がKさんを居室から1階の食堂へ車いす誘導して伺った時です。「あ、ちょい(ちょっと)、この、ほれ」と何か飲むしぐさをしました。「のどが渇いてるんですか?」「・・・ちゃう。ちゃう(違う)ああ、もう」といった感じでKさんはがっくり。言語障害によりなかなか思ったことが口にできないのです。

 とっさに思いつき、詰め所の小さなホワイトボードをKさんに手渡しました。すると、すらすらと何か書き始めたのです。ボードを覗くと、『メガネのオヤジに水をあげてほしい』と書いてあったのです。私はその場で思い切り笑ってしまいました。オヤジ=Iさんだとすぐわかったからです。

 続けて『あのオヤジはこの階か』と聞いてきました。「いえ、2階なんですよ。1階下です」というとまたがっくり。「会ってウォーターサーバーの使い方を教えたいんですね」というと、Kさんは真面目な顔で大きくうなずきました。この恋心は本気だと思いました。

職員のたくらみ

 私は何とか時間を作れないかと思い、職員同士で相談しました。「今度のおやつレクリエーションの時に抜け出しちゃえば?」という意見が多く、そうすることに。おやつレクの日は出勤者も多く、入居者さんについてあげられる時間があるからです。

 当日、「Kさん、Iさんに会えますよ。水飲み場まで行きましょう」と私が言うと「ええ。ええ。(いらん)」とはにかみ笑いをしています。まあそういわずと車いすで2階へ。

 他入居者の皆さんも参加して、おやつレクリエーションは2階で行われています。メニューはタコヤキ。またまた廊下を行ったり来たりしているIさんを見つけ、声を掛けようとした矢先、口火を切ったのはKさんです。「おい!」とIさんを呼び止めました。「はいはい」とIさんがやってきます。

 私が「Iさんのどが渇きませんか?ちょっとお水でもどうですか」とウォーターサーバーまで誘導すると、Kさんは「これ!これ!」とレバーを指します。Iさんは「うん~?」。私が少し出して見せると、Iさんも震える手で、1人で水を出すことができました。「いやあ、おいしいですなあ!こんなおいしい水は飲んだことがない!」と満足そう。Kさんもにこにこしています。何か言いたそうなのでまたホワイトボードを渡すと『オヤジ、よかったな。なんぼでも飲め。』と書いてありました。

 そのあとIさん、Kさんと私とで仲良くタコヤキをいただきました。私は、ちょっと邪魔だったかもしれませんね。言葉や意思の疎通は曖昧でも、なんだかいい雰囲気でした。このまま恋愛に発展したと言いたいところですが、ここは有料老人ホーム。叶わぬ恋でしたが、その後も合えば楽しそうにコミュケーションをしています。いくつになっても…っていうやつですね(笑)

[参考記事]
「認知症になってからの恋愛。いくつになっても男と女」

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