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認知症の人は入浴などのデイサービスに慣れるまでが大変

 

 今回は認知症の人がデイサービスにどのように慣れていくのかを書いていきます。認知症ではなくても年を取ってくると、環境に慣れるまでは時間がかかります。そこをどうやって慣れさせていくかという面も含めて、説明をしていきます。

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望まない通所

 アルツハイマー型認知症の80歳女性Mさんの話。もの静かな方で、お若い頃は編み物や手芸をよくされていたとのこと。某田舎町で、娘や息子さんはおらず、同じく認知症を患う80代後半のご主人と自宅で生活されていました。ご主人が奥さんを介護される認認介護(認知症の人が介護する状況)です。清潔の保持や日中のご主人の休息も兼ねて、デイサービスに通うことになりました。

 通い始めてしばらくは、「なぜここにいるのか」「早く帰りたい」と、さめざめと涙を流されることがあり、家にいると寝てばかりになってしまうことやご主人の休息のためという説明をしても、理解はされても納得されることはありませんでした。また、時には迎えに行った時点で「今日は休む」と通所されないこともしばしばありました。単純にMさんはお家に居たかったのです。

 ですが通所し、3週間ほど経ったある日、Mさんはデイサービスで編み物をしたのが楽しかったようで、普段の不安そうな表情から一転、穏やかな表情を見せくださるようになりました。それからというもの、簡単な料理や台所仕事、手芸など「帰りたいんだけど」と言いながらも取り組まれ、以前より少し積極的に活動に参加されるようになりました。また、多弁ではないながらも他の女性利用者達とのおしゃべりもされるように。その後も時々通所拒否されることはありましたが、スタッフや他の認知症の利用者達と顔見知りになり、通所される日が増えていったのです。

入浴へ向けた第一歩、まずは紙パンツの交換から

 通所開始の時点で、Mさんは尿臭や便臭がありました。ヘルパーさんの手伝いで、家でシャワーを浴びてはいましたが、毎日ではありません。シャワーを拒否されることもあり、一ヶ月シャワーなしの時もあったようです。

 Mさんは汗かきで、夏には入浴分とは別に着替えを用意していただがないといけないほどでした。また、失禁などもあるので、衛生面を考えると、デイサービスでの入浴が最善のように思われました。しかし、デイサービスでの入浴を勧めるも、ご本人の羞恥心などで、Mさんには入浴を断られてしまいました。

 そこでまず、Mさんにこのデイサービスに慣れてもらうことやスタッフとの信頼関係を築くことを一番の目標とし、衛生の保持については当分はこれまでのように家でシャワーをしてもらい、デイサービスでは紙パンツの交換をしっかり行うことにしました。ただそれも、本人が強く拒否する時は無理強いしないという前提の下です。

 Mさんはデイサービスでの紙パンツの交換も、最初は嫌がりました。失禁でかなりボトボトになった紙パンツを「大丈夫。なんでもないから」と、履いたまま。ご本人がトイレに行くタイミングで替えの紙パンツを渡しても、「もったいないから」と汚れた紙パンツを履いたまま、新しい紙パンツはカバンに戻してしまいます。スタッフがトイレを覗くこともままなりませんでした。

 それでは埒があかないので、「お恥ずかしいのに、すみません。体調管理で尿の色を見るため、中に一緒に入らせてもらいますね」など、スタッフはあれこれ理由をつけて一緒にトイレに入り、紙パンツの交換をしてもらうようにしました。

衣服の着替えでもう一押し

 次に、デイサービスで着替えをしていただくことにしました。自宅ではヘルパーさんが洗濯物をしてくれていたのですが、Mさんとご主人ともに認知症のため、家内を整理整頓することができず、物や衣服が散乱。またそのヘルパーさんが来るのも毎日ではないため、ヘルパー不在の間に汚染した紙パンツなどがちゃんと処理されずに、廊下に放置されていることが常でした。家の中には尿便臭が立ち込め、衣服もきれいなものと汚れたものが混ざってしまっていました。

 そこで、通所の朝、見送りのヘルパーさんに、デイサービスの準備の中にきれいな着替え一式も用意してもらうようにし、Mさんがデイサービスで入浴ができなくても、せめて脱衣室で着替えだけでもしてもらうようにしました。やはりスタッフの前で服を脱ぐことをためらうMさんでしたが、デイサービスの看護師に「汗疹ができてるか確認したいので」と言われると、すんなり服を脱ぎ始めました。Mさんだけでなく、多くの利用者が「看護師」「担当医」の文字には比較的素直に応じられるように見受けられます。一般の人だけではなく、認知症の人も権威には弱いですので、慣れるまでは上手く利用させていただきます。

 着替えた後、「すっきりしましたか?」と声かけすると、Mさんはにっこり。その後もしばらく着替えのみの対応をしましたが、回数を重ねるうちに「汗で濡れてるので、着替えましょう?」のスタッフの声かけで、着替えをされるようになりました。

ついに入浴した日

 脱衣室での着替えに慣れるそれまでにも、デイサービスの入浴場を見せて「うちの(デイの)お風呂は気持ちいいと評判なんですよ」とよく話したり、入浴好きな他の利用者さんにデイサービスのお風呂を勧めてもらったりと、Mさんがデイサービスでの入浴にポジティブなイメージを持てるようにしていました。

 そしてデイサービスにも着替えにも慣れてきたある日、Mさんに入浴を勧めたところ、初めはやはり断られました。では着替えだけでも、と脱衣室まで行き、服を脱いだところで看護師が登場。肌を観察し汗疹があることを伝え、「入浴した方がすっきりしますよ」「きれいにした方が汗疹にもいい」など話しました。まだ渋る様子のMさんでしたが、慣れたスタッフが浴室で洗髪など手伝う旨を伝えると、やはり渋々でしたがなんとか入浴する気になったようでした。シャワーの出し方やシャンプーなど備品の説明をするも、認知症により理解できず困惑している様子だったので、洗髪は声かけしながらスタッフが行い、体はご自分で、背中など届かないところはスタッフが洗うのを手伝いました。

 入浴を終えフロアーに戻ってきたMさん。いつもは寝癖でぐちゃぐちゃで、頭皮油で少しベタついていた白髪が、きれいに洗われブローされ輝いているようでした。「お風呂、気持ちよかったですか?」と聞くと、にっこりされ「気持ちよかった」と一言。これまで実に一ヶ月半かかりました。この日を境にMさんはデイでの入浴ができるようになり、尿臭・便臭や汗疹もかなり改善されました。その後もMさんの気分が乗らず、入浴拒否など度々ありましたが、その時は着替えと紙パンツの交換にとどまり、着替えもできない時は紙パンツの交換だけでもして帰宅してもらうようにしていました。

 ご主人を離れて、初めてのデイサービスへの通所。Mさんご本人にとっては、どんな人がいて、どんなことをするのか、なぜ通うのか、分からないという不安はあったことでしょう。その不安を一つ一つ取り去ることで、やっとここまでのサービスを行うことができたという達成感はありました。

[参考記事]
「介護のプロはどのように入浴拒否の認知症の人に対応しているか」

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