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自力で食事を食べない認知症の人への対応。席を変えるだけで大きく変化

 

 この記事では、上肢(腕や指など)の動きに問題はないものの、自力で食事をしようとしない方への対応事例を紹介します。

 従来型介護老人福祉施設に入居されているSさん(81)はレビー小体型認知症のある方です。30分ほど座っていると頭部後屈(頭が後ろに反る状態)が強く出てしまうため、ヘッドサポートの付いた車椅子を使用されていました。いつも表情に変化はなく職員からの声かけに対しても「はい」と小さな声で返答されることはあるものの、自発的な発語もなく、食事も全介助にて半量ほど食されている様子でした。

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Sさんが初めて表情を変えた瞬間

 Sさんは日中いつも入居者の過ごす食堂の中央付近に座っていました。この施設ではレクリエーションなどは殆どなく毎日同じ流れの繰り返しで生活をしていました。

 ある日Sさんの車椅子を職員が押す形で施設の敷地内を散歩することになりました。田舎の介護施設ということもあり敷地内には整備された花壇や畑などがあり、自然を感じることのできる環境でした。介護職員として何気なく「Sさんは20歳くらいの時に何をしていましたか」と尋ねると、今までに見たことのない穏やかな表情をされて、「そうだね、私が20歳くらいの頃には子どもも2人いたから、子育てとか家事とか家のことをするので精一杯だったわね」と話始めました。今までに見たことのない表情としっかりとした発言に語りかけた私自身とても驚きました。

 この出来事を他の職員と共有し、Sさんにとって「良い刺激」があれば出来ることが増えるのではないか模索していくこととなりました。

Sさんの食べる意欲を引き出すための対応

 自力で食べようとしない認知症のSさんの対応を話し合う中で、Sさんにとって「席」が大切なのではないかという結論に至りました。Sさんの食堂での席は職員が食事介助を行いやすいように介助の必要な人を集めたテーブルで、その席から見える景色は、職員が誰かの口にスプーンを運んでいるか又は自分の方にスプーンが向かってきているのかの2つしかありませんでした。そのため比較的介護度も低く、食事は「自力にて食されるグループがよく見える席」へ移動させていただきました。

 席の移動を行い、食事配膳後のSさんの状態を近くで見守っていましたが、手が動くことはなく、少しでも可能性があればと、「自力摂取されている様子が見える席」への配置を変えることはしませんでした。併せて職員がSさんの手を取り、スプーンを握っていただき、Sさん自身の手で口元まで運ぶ動作を3回程繰り返すとスプーンを持った手に力が入り、自力でゆっくりとスプーンを口まで運ばれました。その時は1口のみで手が止まりましたが、数日間同様のサポートを続けることで5割程度は自力にて食されるようになりました。

 Sさんは約3年前に入居されましたが、この関わりを持つまでは一度も自力摂取されることはありませんでした。またSさんに自力摂取できる力があると職員が気付けておらず食事介助を行うことでSさんのできることを取り上げてしまっていたのかもしれません。

 Sさんとの関わりを通し、認知症のある方に対して「環境」が大切なアプローチの一つであると学ぶことができました。食事の時に見える景色が介助されている場面だけでは「食事とは介助されて食べるもの」と思ってしまう認知症の人もいて、そういう人には今回みたいな席替えが非常に有効です。

[参考記事]
「失認などにより食事ができない認知症の人への対応」

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