広告

Read Article

施設に入居した不安から大声を出す認知症の人への対応事例

 

 この記事では介護老人福祉施設に入居されてから自分がどこにいるのか分からず、そのことで不安を抱え、大声を出す認知症の人に対する対応事例を紹介します。

 Ⅿさん(87)はアルツハイマー病認知症を持った女性でした。在宅では半年前に夫を亡くし独居生活になり、その後、介護ヘルパーさんが入ったり、近所に住んでいる娘が毎日夕方食事を持っていくことで生活を送っていました。しかし、娘の転勤に伴い長年住んでいた家を離れることになったことで施設に入所となりました。

 施設に入居された初日から娘の名前を呼び、娘がいないことが分かれば喉が張り裂けんばかりの声で「助けて」と何度も何度も大声で繰り返し叫ばれていました。その都度職員が「大丈夫ですよ。私たちがいますから困ったことがあれば教えて下さい」と伝えましたが、Ⅿさんはいつも「何でもないの、ありがとう」と返答されていました。しかし、職員が傍から離れるとまた娘の名前を呼び始め、他入居されている方から「うるさい、甘ったれるな」と罵声を浴びせられることもありました。

広告

Ⅿさんの不安の原因は何か

 Ⅿさんのケアにあたる職員はⅯさんが不安を訴えるとすぐに傍に行き「大丈夫ですよ。心配いりませんよ」などの声かけをしていました。また娘も福祉関係の仕事を行っており、最初は不安で落ち着かないかも知れませんが1ヶ月もしない内に慣れて落ち着くと思いますと話されていました。

 しかし私たちは不安な気持ちを少しでも早く取り除いてあげたいと考え、時間の許す限りⅯさんの話をたくさん聞くという対応を取りました。その中でⅯさんは夫のことをとても愛されていて、その夫が亡くなり、娘を頼る自分が情けなく思うが、寂しい気持ちが抑えられないとの話をしてくれました。とても愛に溢れた環境の中で生活されていたのが一変し、突然施設入居となり混乱されている様子でした。

 Ⅿさんの不安は施設入居によるものと考えられました。しかし現実的に家庭と全く同じ環境を構築することは難しいため、娘に代わり施設職員に安心して頼っていただけるように働きかけを行うこととしました。

「頼っていいんだ」と思っていただくための対応

 介護士がⅯさんの要望を断ったり、否定したことはありませんでしたが、Ⅿさんは入居されてからも介護士ではなく娘に用事を頼みたいという思いが強いようで「悪いから娘に頼みます」といつも口にされていました。

 Ⅿさんは認知症による短期記憶の障害があり、娘より説明を受けてもすぐに忘れてしまう状態でした。そのため、職員の顔などは見たことがある程度の認識でしたが、頼れる相手かどうかの判断が難しいようでした。

 そのため「介護士はⅯさんのことをよく知っています」ということを理解していただくために「〇〇(娘)さんに頼まれているのですが、困っていることはないですか」など、娘の名前を会話の初めに言うことにしました。するとⅯさんは「娘のこと知っているの」と問いかけてきます。そのため「ええ、〇〇さんは××の仕事が忙しいみたいですね。娘さんの仕事が落ち着くまでここでお手伝いさせてください」と伝えると不安な表情は収まっていきました。

 職員がⅯさんの娘に代わることは難しいものの、「娘がお願いした人」を演じることでⅯさんは安心した様子で私たち介護士にお願い事をしてくれるようになり、安心したためか自然と笑顔になることが多くなりました。

 この関わりを続けることでⅯさんの大声を出しての不安の訴えや娘を呼び続ける行為は徐々に減っていき1週間程度で聞かれなくなりました。

 認知症の人が施設に入居する時には大きな不安が必ず付きまといます。それを少しでも減らすことができるのであれば以上のような対応もありかと思います。

[参考記事]
「環境の変化により不安や興奮が強くなり認知症の症状が悪化」

URL :
TRACKBACK URL :

Leave a comment

*
*
* (公開されません)

Return Top