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デイサービスでの食事を食べない認知症の人への対応事例

 

 A氏はパーキンソン病が持病としてあり、さらに認知症と診断名がついている女性です。認知症としての症状は、短期記憶障害(最近の記憶保持が難しくなる)や固執症状が主となっています。夫、長男と自宅で同居していますが、夫は要介護状態であり、長男も仕事があるため、ほとんど自ら言葉を発することがない状態でした。在宅生活を継続していくためにも(家族希望もあり)デイサービス利用が開始となりました。

 在宅生活では、パーキンソン病の病状により自身で立ち上がることも困難な状況であったため、利用開始当初から日中ほとんど座ったままの生活をされており、食事も長男の介助により食べている状態でした。デイサービスを利用するにあたって長男より「自分で食事を摂れるようになってほしい」という要望があり、これに向けた支援を行っていくことになりました。

 尚、デイサービス契約前の利用体験をしていただいた際に自身でコップのお茶を飲むことができ、食事に関してもスプーンを使って自身で食べている姿を観ることができたため、食事動作の自立は十分に可能と考えられました。また、食事に対する支援を行っていく前情報として、自宅ではミキサー食(ご飯やおかずをミキサーにかけたもの)となっていること、部分義歯があることを確認しておりました。

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デイサービスで食事を食べようとしない

 「食事」と一言で言っても、様々な要素が組み合わさって「食事を摂る」という動作が行われます。簡単に捉えても、「食べようとする意欲がある」「狙った食物を箸(またはスプーンで)捉えて口元に運ぶ」「口の中で噛んだりしながら食べ物をまとめる」「飲み込む」といった工程となります。

 勿論、「食べようとする意欲がない」となれば、その後の工程も起きないため、食事そのものが完了することはありません。A氏は運動に対しては受け入れが良好でしたが、食事に対しては一様に食べようとせず、「意欲がない」というところから課題がありました。職員の介助により騙し騙し食べていただきましたが、自らは食べようとせず、当初の目標でもある「食事動作の自立」には中々近づけることができていませんでした。

食事を食べない原因を考えて対策を立てる

 食事を食べたがらない理由を考え際に、最初に思い浮かんだことは「味」でした。当事業所は外注で弁当を頼んでいるため、食事のメニューは決められていました。しかし、事前に連絡しておけば調整してもらえる環境でしたので、まずは食の好みを調査することにしました。

 本人に好き嫌いを伺うものの、認知症もあり「食べようとする意欲がない」という状態であったため、全てのものに対して「好きじゃない」「分からない」という返答でした。家族に以前の好みだったものや苦手としていたものなどの情報を収集し、今まで利用中に比較的食事を多く摂ることができたメニューを職員で共有することにしました。結果、お肉類が好きそうなことが判明し、魚関係(特に青魚)は苦手そうであることが分かりました。

 次いで、食事を食べたがらない理由として、単純に食べるという行為が大変と感じていることが考えられました。そこで、食事姿勢をクッション等使って修正し、テーブルをやや低めに設定することで、テーブルと体を可能な限り近づけるよう調整しました。更に、飲み込む際の誤嚥(ムセ込み)を防止するため、顎を引いた状態で飲み込みができるよう調整しました(健常者でも顎を突き出したり上を向いたりしながら飲み込むと誤嚥を生じやすくなります)。

結果とまとめ

 食事メニューの再検討、食事の際の姿勢を調整することにより、結果的に1週間後には徐々にですが自身でスプーンを持って食べられるようになってきました。食事の介助は比較的時間を取られてしまうことが多い動作です。食事を自身で食べられるようにしていくことは、本人は勿論、家族の介護負担を大きく解消することに繋がります。

 デイサービスでは利用者が「お客様」となるため、「食事を食べようとしない」となると得てして「本人がそう望むのだから仕方がない」「介助して食べさせる」となってしまいがちです。なぜ食べようとしないのか、なぜ食べられないのかの原因をしっかりと考えることが、本人、家族を含めた介護に関わる方々の負担を減らしていく一つの方法となります。

[参考記事]
「自力で食事を食べない認知症の人への対応。席を変えるだけで大きく変化」

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