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通院を嫌がる認知症の人への通院介助について

 

 認知症高齢者の中には病院に行くのを嫌がる方もいます。理由は様々ですが、今回はEさんの事例を通して通院支援を通して感じた事について考えてみます。

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Eさんの人物像と日常生活

 Eさんは83歳になる男性で、早くに奥様を亡くしずっと一人暮らしをされてきました。建築関係の仕事をずっとされてきた方で男気溢れるギャンブル好きの男性です。お子様は一人いますが、遠くに住んでおり1年に1回会うか会わないかといったところです。

 二年前程前から、「泥棒に入られた」と言っては警察に電話して、警察が来ると「俺そんな電話してない」と言う事や、食事の心配等からグループホームに入居になりました。

 Eさんのグループホームでの生活は、要介護度1ですので記憶に関する事以外は基本的に問題ないです。そんなEさんですが、子供の頃から注射が嫌いで、本人曰く「今まで病院に一度も行った事がない」と毎日のように話します。

 Eさんはアルツハイマー型認知症の薬と血圧の薬を貰いに定期受診しなければなりません。初めの1年くらいは昔からEさんが信頼されているご親戚の方が通院に付き添って下さいました。毎回「俺病院行った事ない」と言いながらも、しぶしぶ病院に行ってました。

 ただ、1年程経ったある日、ご親戚の方がどうしても都合がつかなくて、職員同行で受診する事になりました。1回目は「今日病院の日なので行きましょう」と普通に声かけました。すると、「行かねえよ」と拒否。

 結局、その日は少し時間をあけて、親戚の人の電話での説得によって病院に渋々行くことになりました。ですが、待合中に「こんなに待てねぇわ」と言って、職員の声掛けに一切耳を傾けず病院から出て行ってしまいました。急な事で動揺した職員は少し強めの口調で待ってくれるよう伝えると、更に機嫌を損ねてしまいました。結局他の職員が変わって、なんとかグループホームに帰ってきました。

僕の通院介助方法

 翌日休み明けの僕は前日の通院事情を聞き、後日通院介助させて頂く事になりました。

 僕は、Eさんは男気ある方なので、「約束は必ず守る人」という印象を持っています。ですから、嘘をついて「約束の病院行く時間になりました!」と元気に言えばついて来てくれる読みはありました。

 ですが、こういう嘘をつきすぎると、僕は人を騙して病院へ無理やり連れて行っているのでは?という思いになってしまい罪悪感にさいなまれます。7年の認知症支援の経験から、認知症の方は、明確な記憶の部分に関しては覚えていないかもしれませんが、人に対して、自分の敵・味方といった感覚的な「印象」は残っているのでは?と僕は感じてます。ですから、継続して嘘をつくとEさんが僕に対して敵として悪い印象が定着すると考え、Eさんと僕との信頼関係を壊す原因になる可能性があると考えました。

 それで、ゆっくり時間をかけ、Eさんと会話し、通院の約束をする事にしました。その会話の中で、Eさんの本当の気持ちといいますか、病院が嫌いな深い理由を知るとともに、Eさんがやりたい事をより深く知る事ができました。病院が嫌いな理由を解消するとともに、好きなことをやってあげると約束すれば病院に行ってくれる可能性が高くなります。

 僕が把握したEさんの気持ちの中での要点は「自分は元気だから病院に行く必要はない」「記憶に関する不安はあるが、病院に行くとお金の事が心配だ」「昔住んでいた家に行きたい」「蕎麦・コーラが好き」という事でした。

 それで、Eさんと病院行く前に、コーラを一緒に飲みに行ってから病院に行く。病院のお金は国が払ってくれるので1円も必要ないという話しをしました(生活保護の方なのですが、その事は触れませんでした)。そして、帰りに昔から行きつけの蕎麦を食べに行くという約束を頂きました。

 そして、もう一度時間をあけてから再度病院の話しをしますが、認知症の人なので、約束の話しは忘れられています。もう一度時間をかけ約束させて頂きました。

 通院当日、「お待たせしました!」と僕が元気に声掛けました。Eさんは「なんか約束してたっけ?」と言いながらも僕について来て下さり、車に乗ってくれました。一緒に出掛ける約束していたと会話しながら、車に乗りました。

 約束どおりコーラを飲み、病院行く話しをし、同時にお金の心配はない話しをしながら、病院に着きました。病院の中ではいつもEさんが熱心に話をしてくれる戦争の話しを振らせて頂きました。入居者さんの中には、戦争の話題で混乱される方もいらっしゃいますが、Eさんの戦争の話しは、笑いながら話してくれるので問題ないと僕は判断しました。

 無事受診を終え蕎麦を食べに行くと「ここは俺が建てた蕎麦屋なんだ」と自慢げに話して下さいました。後で家族に聞くと蕎麦屋は本当にEさんが建てた建物であることが分かりました。物作りにやりがいを感じる方だと知る事ができましたので、後日、グループホーム内で組み立て式のタンス作りを手伝っていただきました。

 そして蕎麦を食べ終えグループホームに帰ろうとすると「ちょっと家寄ってくれないか?」と頼まれ、昔住んでいた家に行きました。このEさんが昔住んでいた家を見ると畑作りを日課にされていた事が分かりました。ですのでグループホームでも畑仕事を手伝ってもらって、Eさんとの会話も弾むようになりました。

 今でも「病院に行った事ない」とおっしゃいますが、よくEさんと外出する職員中心に通院介助させて頂いております。

感想

 Eさんは「病院には行った事ないけど、なんかあんたと出掛けた記憶はある」とおっしゃってくれます。認知症の方には記憶障害で忘れようとも良い印象を残すことが大事であることが分かりました。

[参考記事]
「認知症の人の借金を社会福祉協議会の協力で返済」

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