① 症例
腰の骨を折って入院し、在宅での生活が難しいと判断され、介護老人保健施設(老健)に入所することとなったSさん(女性 79才)。
Sさんは軽度の認知症ですが、骨折する前はアパートに一人で暮らしていました。腰部を骨折し、退院して老健に入所する頃には、杖をつけば一人で歩くことができ、身の回りのことはほぼ一人で行うことができていました。
本人の性格としては、こだわりが強く、他人に深く関わられることを嫌う傾向にあるのが特徴です。そんなSさんの一番の問題は入浴拒否でした。
② 問題:入浴に対する拒否が強い
入所して3日ほど経ったある日、職員がSさんを入浴にお誘いしました。しかしSさんは「しんどいからね、お風呂はやめておく」と断られました。
その日はたまたま気分が乗らなかったのかもしれないと、後日また誘ってみることにしました。しかし、数日後に誘ってみるもまた断られてしまいました。温泉が好きとの情報を聞き、施設にある大浴場にもお誘いしてみましたが、やっぱり断られてしまいました。
そんなやり取りが1ヶ月近く続き、その間一度もSさんは入浴、清拭、着替えなどをしていませんでした。その状態では清潔な状態が保てずに、感染症のリスクや皮膚病にかかってしまう可能性も考えられました。
③ 対応:浴室に慣れることから始める
職員はSさんを入浴させるこで頭がいっぱいになっていました。しかし、そもそもSさんは一度も浴室に足を踏み入れたことがありません。もしかしたら、新しい場所に対し、警戒しているのかもしれません。
そこでまずは浴室に慣れてもらうことから始めようと考えました。しかし、普通に浴室にお誘いしてもSさんは行きたがりません。Sさんは杖があれば、自由に歩き回ることができるため、無理に連れて行くことも難しいです。
そこで、浴室に行く為に車椅子に乗って頂くように促しました。食席に椅子の代わりに車椅子を置いておくと、自然に座ってくれました。車椅子に座ると不思議と抵抗がなくなり、そのまま浴室に連れて行くことができました。
そして、「足湯をしましょう」と声かけすると、快く受け入れてくれました。浴室での足湯に慣れてくると、洗面台で髪を洗うことも受け入れてくれるようになりました。
またそのまま首元が濡れてしまったため、洋服を着替えましょうと提案すると、洋服を脱ぎ、清拭や、着替えまでさせてもらえるようになりました。
未だに浴槽に浸かることや洗い場で身体を洗うことは難しいですが、入所時に比べると浴室に対する拒否的姿勢を緩和することができました。
④ まとめ
ある課題に対し、その課題を解決しようと直接アプローチしても上手くいかないことがあります。このケースも、入浴拒否という課題に対し、どうにかして入浴させようと思い、お風呂に入りましょうなどと声かけをしても上手くいきませんでした。
そうではなく、その課題を解決するためのスモールステップを考えることが大事なのです。このケースのステップとは、まず、浴室に慣れさせる、そして、洗えるところを洗ったり拭いたりしてみるといったことです。段階的に小さなステップを踏み、一つずつ課題をクリアすることで、入浴に繋げていくことができます。
また、利用者様の清潔を保つことが目的であれば、無理に入浴させずに現状維持でも良いのかもしれません。認知症の方にとって不快なことを無理にさせるのは良いことではありません。その方に合った目標を臨機応変に決めていくことが一番大切なことなのです。
[参考記事]
「入浴拒否がある認知症の人への対応。原因は髪の毛だった」
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