超高齢社会に突入した日本では、「認知症」は誰にとっても身近な言葉となりました。しかし、その一方で、「ちょっと物忘れが増えたから認知症かも」「最近元気がないから、もう始まっているのでは?」といった誤解や思い込みも広がっています。
本記事では、認知症に関する代表的な誤解と、それを解くために必要な5つの真実をご紹介します。正しい理解を深めることが、ご本人やご家族の不安を減らし、適切な対応につながる第一歩になります。
真実①:「物忘れ=認知症」ではない
誰しも年を重ねると、名前が出てこなかったり、鍵をどこに置いたか忘れたりすることがあります。これは「加齢による物忘れ」であり、脳の老化現象の一部です。認知症による物忘れとの違いを見てみましょう。
比較項目 | 加齢による物忘れ | 認知症による物忘れ |
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忘れる内容 | 一部(例:会話の内容の一部) | 全体(例:会話したこと自体) |
自覚 | 自覚がある | 自覚がないことが多い |
日常生活 | 支障は少ない | 支障が出ることが多い |
加齢による物忘れは自然なものであり、認知症とは明確に異なります。自分や家族が「物忘れしている」ことに気づけるなら、それはまだ健康な範囲内である可能性が高いのです。
真実②:「うつ病」や「せん妄」は認知症と誤解されやすい
高齢者に見られる症状の中には、認知症とよく似たものもあります。その代表が「うつ病」や「せん妄(意識混濁状態)」です。
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うつ病の高齢者は、無気力・無関心・集中力の低下などを示し、会話にも反応が乏しくなります。「ぼけた」と誤解されることも少なくありませんが、適切な治療で改善が見込まれます。
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せん妄は急激に出現し、昼夜逆転や幻覚、混乱を伴うことがあります。入院中や感染症後などに見られ、一時的な脳機能障害によるものです。
これらは「治る可能性のある状態」であり、認知症とは違います。早期に専門医を受診し、原因を見極めることが重要です。
真実③:「認知症=アルツハイマー型」だけではない
「認知症=アルツハイマー病」と思われがちですが、実は認知症にはいくつものタイプがあり、それぞれ原因や症状が異なります。
代表的な認知症の種類:
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アルツハイマー型認知症:最も多く、記憶障害から始まる
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血管性認知症:脳梗塞・脳出血などによる障害で、段階的に進行
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レビー小体型認知症:幻視や運動障害(パーキンソン症状)を伴う
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前頭側頭型認知症(ピック病など):人格変化や衝動的な行動が目立つ
それぞれに特徴があり、治療や介護のアプローチも異なります。「記憶障害がないから認知症ではない」というのは誤解で、行動や感情面に症状が出るタイプも存在します。
真実④:「早期発見=すぐ治る」ではないが、意味はある
認知症は現在の医学では根本的な治療が難しいとされていますが、早期発見には大きな意味があります。
主な理由は以下のとおりです:
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一部の認知症は進行を遅らせる薬物療法が可能
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介護サービスや生活支援の利用計画が早く立てられる
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ご本人が将来の意思決定に参加できる
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家族の心理的・物理的な負担を軽減できる
また、認知症に似た別の病気(うつ病・甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏症など)の発見にもつながります。「まだ大丈夫」と様子を見るより、専門機関に相談することで適切な対応が可能になります。
真実⑤:「認知症になっても人生は終わりじゃない」
認知症になると「自分らしく生きられない」と感じてしまうかもしれません。しかし、認知症と診断された方の中には、支援を受けながら地域で役割を持って活躍している人も数多くいます。
たとえば:
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地域のサロンでのボランティア活動
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自身の経験を語る「本人発信」の講演活動
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認知症カフェでの交流
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アートや音楽などの創作活動
また、最近では「認知症とともに生きる」ことを前提としたケアや町づくり(認知症フレンドリーな社会)も進んでいます。
認知症になっても、環境や支援が整えば、尊厳を持って暮らし続けることができます。大切なのは「できないこと」ではなく「できること」に目を向ける視点です。
おわりに:認知症は「怖い病気」ではなく「理解すべき病気」
認知症は誰にとっても無縁ではない病気ですが、「正しく知る」ことで、その恐れや誤解を和らげることができます。
人は、知らないことに対して不安になります。逆に、知識を得ることで心の準備ができ、冷静な行動が可能になります。認知症を正しく理解し、ご自身やご家族、大切な人の未来を守るために、ぜひ今回の5つの真実を覚えておいてください。
🔹この記事のまとめ
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物忘れ=認知症ではない
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うつ病やせん妄も認知症と誤解されやすい
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認知症には複数のタイプがある
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早期発見は治療だけでなく人生設計にも役立つ
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認知症と共に自分らしく生きることは可能
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