認知症の高齢者は、熱さや寒さなど気温の変化に鈍感になる人が多く、真夏でもセーターなどの厚着をしたがるケースがあります。高齢になると、体温調節機能の衰えや認知機能の低下によってそうした傾向が現れやすくなり、年間を通して同じような洋服で過ごす人も。
季節に合わない服装をしていると、体の不調を招きやすくなります。特に、真夏にあまりにも度を越した厚着は、熱中症や脱水症状を引き起こす危険があるため、注意が必要。
今回は、厚着をしがたる認知症高齢者への対応について、実際の介護現場でのケースをご紹介したいと思います。
真夏なのに長袖を2枚3枚と重ね着する
Iさん(80歳後半・認知症の女性)は、とても細身で寒がりの方。夏になり、周りはみんな半袖の洋服を着ていても、Iさんだけは一年中、長袖のブラウスに長袖のセーターという姿で過ごしたがります。しかも、下着も長袖のため、常時3枚も長袖を着ていることに。
施設内は冷房が効いてはいますが、設定温度は決して低いとは言えず、動き回る介護職員は汗をかくほどの室温。
もちろん、寒がりの人は夏でも長袖を着る場合もありますし、中には薄手のカーディガンを羽織る女性もいますが、Iさんのように分厚いセーターを着るなど真冬のような服装をするのはあまりに度が過ぎています。
本当にセーターが必要なほど体が冷え切っているのならまだしも、Iさんの様子を伺うと背中がうっすらと汗ばんでいることもあり、厚着の理由は本当に寒いからではないように思えました。
脱水症状になってはいけない、と職員が水分摂取を勧めても、ひと口ふた口飲む程度であまり積極的に水分を摂ってくれません。そこで、Iさんが体調不良で倒れたりしないよう、何とか働きかけてみようという事になりました。
体調不良を起こさないために行ったこと
いくら体に悪いからと言っても、「寒い」と思い込んでいる人から無理やり洋服をはぎ取るわけにも行きません。
まずは、脱水症状や熱中症予防のために、お風呂上りや休憩中はこれまでのお茶の代わりにスポーツドリンクを飲んでもらうようにしました。幸い、Iさんは甘いものが好きなため、「美味しいジュースをお持ちしましたよ」と声掛けしながらスポーツドリンクの入ったコップを渡すと、「美味しいわねぇ」と言ってよく飲んでくれます。
また、洋服に関しては、いきなり服の枚数を減らすのは困難と判断し、ご家族の協力のもと、Iさんのお気に入りだった薄手のサマーセーターやカーディガンを自宅から持ってきてもらうことに。そして、お風呂上りにはその薄手の洋服を着てもらうようにしました。
洋服が薄くなったので寒がってしまうのではないかと心配しましたが、着ている枚数がいつもと同じせいか、Iさんはあまり気にならない様子。毛100%で編まれた厚手のセーターよりずっと通気性もよくなり、Iさんが汗ばむこともなくなったため、とりあえずはこのまま様子を見ることになりました。
真夏に厚着をしたがる認知症高齢者への対応で注意すべきこと
厚着をしたがる認知症高齢者は、本人が実際に「寒い」と感じている場合と、習慣によって自分の納得のいく枚数の服を着ていないと気が済まない場合があります。
寒いと感じている人に無理に薄着をさせてしまうと、不安にさせてしまい不穏な状態を招いてしまう可能性もあるため、関わり方には配慮が必要です。その場合、今回のように、脱水症状の予防に水やお茶よりスポーツドリンクを勧めたり、薄手の洋服に変えたりと、まずは職員側が工夫をして体の安全面を確保することが大切。
ただでさえ高齢者はあまり積極的に水分を摂りたがらない人が多いので、夏の水分摂取には細心の注意を払わなくてはいけません。その後の関わりの中で、自然な形で気温に合った洋服を身に付けてもらうことを目指すのが理想です。
Iさんにも、真夏には出来ればもう少し薄着で過ごしてもらいたいところですが、本人のこだわりもあるため、焦らず時間をかけて良い状態に持っていけるようにしたいと思っています。
[参考記事]
「認知症の人が熱中症になりやすい原因とその対策について」
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