認知症のあるRさん(90才男性)は、認知症の進行が見られ、性的な行動をとるようになった、とのことで4年前、認知症グループホームに入居されました。
息子さん夫婦と暮らしていましたが、性的な行動の対象が息子さんの奥さんに向いてしまい、お義父さんの介護をする、と決意していたお嫁さんも困ってしまったそうです。
認知症の方で、性的な行動をとられる方は少なくありません。判断力が低下し、羞恥心や、抑えようと思う気持ちが失われてしまうためです。
Rさんは認知症グループホームに入居後、落ち着いて過ごされていましたが、認知症の進行と共に、職員に対して性的な行動が見られるようになりました。
認知症が原因の行動とはいえ、女性職員たちも対応に困り、「Rさんの居室に入るのが怖い」と言う職員もいました。どうしたら、性的な行動が減り、落ち着いて生活できるのか考えました。
●Rさんの症状と性的な行動について
Rさんは認知症の中核症状である記憶障害、見当識障害、失行、失認、失語などが見られました。言葉が減っていきましたが、表情が豊かなため、他の入居者さんたちと良い関係が築けていました。
オムツ交換や着替え、お風呂などは全て介助が必要です。その際に、介助する女性職員に対して性的な行動をとることが多かったです。ここで気をつけたいことは、「お年寄りだから力も弱いだろうし大丈夫」と思わないこと。普段は、力が弱いお年寄りであっても、性的な行動をとるときには、力が入ることがあります。女性職員が、抵抗できないほどの力で引き寄せられた、という話も聞きました。
男性職員が対応することが理想であると思いますが、男性職員の人数が少ないため、女性職員もRさんの介助をする必要がありました。その場合、居室のドアは全開にし、二人だけの空間を作らないようにしました。
性的な行動を抑える対応
Rさんの対応に悩む女性職員が多かったため、話し合いました。オムツ交換や着替えは、楽しい話をしながら素早く行うことにしました。まず、お孫さんの話や、Rさんの趣味である盆栽の話など、Rさんが興味を持てる話を振ります。
するとRさんがそれに関して話し出すため、そのタイミングで、職員は相づちを打ちながら、オムツ交換や着替えを行います。今までは、オムツ交換や着替えの時間は、性的な行動にばかり目を向けてしまい、つい職員たちも警戒してしまっていましたが、会話をしながら楽しい雰囲気でオムツ交換や着替えをするようになってからは、Rさんの性的な行動は減りました。
入浴は、更に性的な行動が多く見られる時間です。このときも、オムツ交換や着替えのときのように、楽しい会話をしながら・・・と意識しましたが、なかなかうまくいきません。Rさんにとって効果的だったのは、
「息子さんは小さい頃どういうお子さんだったんですか?」
「娘さん、キレイですね。Rさん似ですよね。」
など、息子さんや娘さんの話をすることでした。
息子さんや娘さんの話から性の話には結びつかないようで、その話をしている間は、性的な行動をとることが少なかったです。もちろんうまくいく日ばかりではありませんでしたが、性的な行動をとる頻度はかなり減りました。Rさんの対応としては効果的であったと思います。
そして、オムツ交換のときに、Rさんの目が開いていたら、名前を名乗るようにしました。
「Rさん、介護職員の◯◯です。息子さんから頼まれているので、オムツを交換させてもらいますね」と。Rさんは女性職員のことを、自分の奥さんだと思い込んでいることが多かったため、奥さんではなく介護職員であることを認識してもらうことは効果的でした。
このようなことを続けた結果、Rさんの性的な行動は入居直後と比べ、かなり減りました。
●お嫁さんとの時間
それまで、入居前にお義父さんの性的な行動に悩んでいたお嫁さんは、
Rさんの面会に来ることはありませんでした。しかし、Rさんの性的な行動が減ったと聞いてから、度々面会に訪れるようになりました。
入居して5年ほど経った頃には、Rさんは食事を取ることができず、体力も落ちてしまっていました。そんなときに、毎日面会に訪れて、ゼリーなど、Rさんが食べられそうなものを口に運んでいたのは、お嫁さんでした。
最期は、お嫁さんと介護職員に看取られ、静かにお亡くなりになりました。
「性的な対象として見られるようになってから、お義父さんのことを怖いと感じていました。でも、施設に入って性的な行動が減り、また穏やかなお義父さんに会うことができて良かったです。」
お嫁さんが職員にこう話してくれました。
いくら認知症が原因とはいえ、性的な行動に悩むご家族はたくさんいます。大きなショックを受け、今回のように老人施設に入れざるを得ないケースもあります。
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