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認知症と間違いやすい高齢者の行動とは

 

 今回の記事では高齢者の行動を安易に認知症だと判断しない方がいい事例をお話しします。よく観察していないと間違いやすいです。

 有料老人ホームに務めて2年が経過したころ、オープンからいたTさんに認知症の気配が見られるようになりました。

 Tさんは78歳のおばあちゃん。お一人での入居で、子供さんは2人。旦那様は他界されています。家族の面会は少なく、いつも食事時以外は居室にこもりがちでした。

 そんなTさん、どうも薬の自己管理に不備が出てきて、居室に昨日の日付の書かれた薬が落ちていることが数回。通常は薬の飲み忘れが多くなると認知症と疑われる要因になります。

 さらに服の組み合わせもダラっとし始め、今までニットとロングスカートといった上品スタイルだったのが、ジャージ上下やパジャマのままフロアに出てくるようになりました。とても几帳面でおしゃれなおばあちゃんだったので私も少し心配でした。

 これだけでは認知症とは確定できないけれど、会話の中に日付や季節があやふやな所が見え隠れし始めたので、とりあえずケアマネジャーに報告することになりました。

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認知症診断の結果待ちの間の職員たち

「Tさんて、まじめで曲がった事嫌いそうだもんね。そういう人って認知症になりやすいもんよ」

「部屋にパンの食べこぼしがあった。以前は部屋がピカピカだったのに」などと、Tさんの受診日が決まって、認知症の診断結果を待つ間の2週間くらい、職員間ではTさんの変化の拾い合いになりました。

 認知症の中核症状(認知症の人に必ず現れる症状)に触れるような行動や言動は日付や季節が曖昧な見当識障害らしき会話が現れたくらいです。

 当のTさんはというと、食事にフロアに出てくる以外は部屋でテレビを観ているか、好きな手芸をしているか、寝ているかといったマイペースぶり。徘徊するなどの目だった行動もありません。もともと自立している入浴や排泄にも変化はありませんでした。

 変化と言えば、たまに夜勤者から「Tさんの部屋から歌声が聞こえる」という報告がたまにあるくらいでしょうか。他の問題行動もなく、歌っている様子も確認できなかったので、職員間の特記事項にはなりませんでした。

Tさん疑ってごめんなさい

 Tさんの診断結果が出ましたが、認知症になっているという可能性はないとのこと。完全に職員の間違いでした。認知症のテストの質問にも、詰まることなく淡々と答え、退出時は「わたし、ぼけてましたか?」と苦笑いしながら去って行ったと、同行のケアマネジャーから報告がありました。

 それを聞いて職員間の意見は様々でした。
「服の変化はあるよねえ?」
「薬の飲み忘れもあるし」
「季節や日付がたまにあやふやだったし」

 どれも認知症の高齢者であると間違いやすい行動でしたが、何より認知症でなくて良かったなと思いました。

 数日後、月に1回の集団レクリエーションでお好み焼きをみんなで作っていた時、初めてTさんが顔を出してくれたのです。2年間の間に1回もレクリエーションに参加したことの無かったTさんが、お好み焼きをひっくり返しています。

 職員たちは喜び勇んで「Tさん、手際いい!」「Tさん店員さんみたいだわ」と大はしゃぎ。レクリエーションに参加してくれたのが純粋に嬉しかったのです。

 しかし次の瞬間空気が一変。
「わたしなんでも上手やろ?ボケてないところ見た?見たな?記録に書いといてな。お願いしますわね」とTさんが言ったのです。

 職員はどうしていいか分からず、固まりました。
「Tさん、認知症を疑っていたの全部分かっていたんだ」
「どうしよう。失礼があったかも」
「笑ってたけどTさんむちゃくちゃ怒ってたのかな」

Tさんと打ち解けた日

 お好み焼き事件の事はその日のうちに全職員の耳に入り、施設長にも伝わりました。施設長は「失礼が無いように、家族さんにも自然な形でコンタクトを取ってみる。家族会にも1度も出席しておられないし、いい機会だから」とのことでした。

 そして、タイミングを見計らって主任がTさんと居室で話をすることに。10分後、主任は笑って帰ってきました。

 内容はこうです。

 まず薬の件について。Tさんはこう言ったそうです
「あれは眠剤でしょう。命に関わらないし効きすぎるときがあるから自分で調節してます」

 次に服。どうしてイメージチェンジされたのですかと聞くと
「もうここにも慣れてきたし、周りにはジャージの人もいるから、楽な格好をしたかった。手入れも簡単やしスカートは疲れる」

 部屋の汚れは「誰にも迷惑かかってないし、2年頑張ったからもう掃除の職員さんに甘えてもいいでしょ」とはにかみ笑い。

 季節や日付に関しては、質問するとしっかりと答えられたようです。しかしこう付け加えられました。「職員さんみんな1年中半袖着とるしここは24時間エアコンがきいとるから季節が時々あやふやになる」とのこと。たしかにTさんは外出レクリエーションに1回も参加したことがありませんでした。

 最後にあと1点、Tさんから謝罪が。
「夜歌ってごめんね。ボケたと勘違いする行動だよね」とのこと。
「夜布団の中でカラオケの練習をしていて夜勤の方に数回聞かれていた気がする。布団の中で練習したけどびっくりさせたね」「カラオケレクリーションに参加したいけど自信ないねん」と。

 さらに施設長から「家族さんが、『外面がいい母ですが、本当はダラっとした人なんです。本性出てきましたね』と電話で笑ってた」との報告が。

 職員の誤解から始まり、認知症の検査・結果・ハプニングを通して、やっとTさんの事が分かりました。どうして最初から分からなかったのか、後から考えるとやはりTさんが手のかからない入居者さんだったという事。手のかからないことを良いことに情報整理や観察やコミュニケーションを怠ってはいけないなあ、症状だけを見て人を見ていなかったなあ、と心底思った1件でした。

 その後Tさんは次第に食事以外もフロアに顔を出してくれるようになり、カラオケレクリエーションではステキな歌声で人気者に。本当に良かったなあと思います。

 安易に高齢者の行動を認知症だと判断すると間違いますので、自己判断をしないことが大切です。

[参考記事]
「認知症と間違いやすいビタミンB12欠乏症」

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