認知症のTさん(80代女性)はグループホームに入居されて5年の利用者さんです。日常動作は自立されていましたが、足腰が弱くシルバーカーを使用して歩かれていました。
歩行時にバランスを崩して転倒される事故が多く、入居5年の内で骨折をして入院される事が2回ありました。入院期間中にリハビリを行い、退院の際にはシルバーカーを押して歩ける程に回復されましたが、歩行の状態は悪くなっていきました。
特に2回目の骨折以降は歩行の様子がますます危なっかしいものとなり、一人での歩行は難しくなってしまいました。歩行時は職員が付き添ったり、側で見守りをしたりして対応をしていました。
転倒をしてしまう原因と様子の観察
Tさんは認知症の為、自分の足が悪い事を覚えている事ができません。もちろん2回の骨折の事も忘れてしまっています。その為、ゆっくり慎重に歩けば安全に歩く事ができるのに、自分を過信して勢いよく歩いてしまうので、転倒につながってしまいます。
また、認知症の進行から、長年使用してきたシルバーカーの使用方法が疎かになっていたり、曲がり角や物をよける等の危険予測もできなくなっていました。
Tさんが安全に歩く為には、職員が隣で「ゆっくりで大丈夫ですよ。」と声を掛けたりする事で歩くペースを調節してもらえました。何か物があったら避ける様に伝える事で転倒を回避する事ができていました。
ただ、職員はTさんとずっと一緒に過ごす事はできません。Tさんが動かれるのをどのように知り、見つける事ができるかが問題となりました。
Tさんが自発的に動かれる動機や時間などがないか観察を行った所、主に2つの場面を見つける事ができました。まず1つ目は、食事やお茶が済んだ後です。食事を終えると比較的すぐに立ち上り、席を移動されました。以前は食事やお茶が済んだ後もしばらく他の利用者と話をして過ごされていましたが、最近ではどこか別の場所に行こうとされる様になりました。
次に2つ目は、15時~17時の夕方の時間です。夕方になると「雨降ってるかしら?」と職員に外の様子を確認する様になります。そのうちに玄関に向かう為に動きだされていました。帰宅願望から外に出ようとされるのです。
2つの対応策
近頃、Tさんは、認知症の進行により、言葉が出にくくなり、間違った言葉を話されている事が増えてきました。入居当初から食事の席が一緒で、お喋りをする間柄にあった方からも、何度かその事について指摘をされ、言い合いになる事ありました。
Tさんには食事の席が過ごしにくくなっているのではないかと思われ、食事の席を変更してみる事にしました。以前は女性ばかりで活発にお喋りができる環境でした。新しい席として、穏やかな男性2人の所へご案内しました。
自分よりも物静かな男性に対し、Tさんは面倒を見る様に接して下さり、自分から声を掛ける事もでてきました。2名の男性方がゆっくりと過ごす方なので、食後、Tさんも一緒にゆっくりと席で過ごされる様になりました。
帰宅願望が多い15時~17時の時間については、Tさんが落ち着いて過ごす事ができ、職員が見守りしやすい場所を考える事にしました。15時~17時の夕方の時間は、職員にとって休憩を回したりする為、手薄になりがちな時間でした。職員が一人でも見守り出来る様に廊下やトイレからも目が届く、死角のない席にご案内する事にしました。
それでも他の利用者さんの介助につく事もあったので、ずっと見ていなくても音でTさんの動きが分かる必要がありました。床を傷つけない様にと椅子の足にカバーをつけて使用していましたが、Tさんに座っていただく椅子の足からカバーを外す事にしました。
それにより椅子の動く音が、カバー付きのものより聞こえる様になり、Tさんが動き始めた事が音で分かる様になりました。どうてしてもすぐにTさんの近くに行けない時は遠くからでも、今伺う事を伝えると職員を待ってから動いていただける様になりました。