私は認知症

認知症による物盗られ妄想の対応。部屋の環境整備が大事

 

 認知症のFさん(80代女性)は特別養護老人ホームに入居されて2か月の利用者さんです。身寄りもなく一人で自宅で生活されていましたが自分自身将来に不安を覚えたようで市役所に相談され入居となりました。

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物盗られ妄想

 物盗られ妄想は認知症の症状としてよく起こることですが、多くは短期記憶が欠如している事が原因の一つに挙げられます。物盗られ妄想は人が自分の持ち物やお金を盗ったと思ってしまう症状です。その結果、介護している人を犯人だと思って責めますが、これが認知症の症状だと分かっていてもいい気持ちではいられません。

 Fさんはある時、自室で過ごされている際に突然お気に入りの人形が無くなったと大声で探されていました。対応に向かった職員をすさまじい形相で睨み「この盗人め人形返せ」と怒鳴り散らします。時には警察に電話しろと大声で言われることもありました。

 落ち着いてから探すと直ぐに見つかりましたが、このようなことが頻繁に起きており、酷いときはほぼ毎日起きることも珍しくありませんでした。

 ではなぜ物盗られ妄想が起き職員が盗ったと思うのでしょうか?これは短期記憶の弱さが原因の一つです。例えば机の上に置いていた本を片付けようと思い、タンスに仕舞ったとします。この仕舞う動作が短期記憶です。これが欠如したと考えると突然今までそこにあった本が消えたと思います。中には「まあ~いっか」と考える利用者さんもおられます。

 しかし几帳面な方や神経質な方は、「どこにいったの?」「今までそこにあったのに」と思います。認知症になっても本が勝手に歩いて行ったとはまず考えません。最終的には本が勝手にどこかに行くはずがない、誰かが盗んだんだとなります。そこに職員が入ってきたら怒りの矛先や疑惑が職員に向いても変ではありません。

物盗られ妄想の対応

 物盗られ妄想の対応方法として一緒に探してあげる、対応者を変えるなどの方法がありますが、根本的な解決にはなりません。Fさんの場合、頻繁に発生していることからいくら対応者を変えたところで同じことの繰り返しになるのです。

 そこで、無くなった際のFさんの行動を把握することから始めました。最初は直ぐに大声で怒鳴り散らしているのか思いましたが観察していると部屋の中を適当ではありますが、探されています。その後見つからなくなり大声で怒鳴っていました。

 Fさんの部屋を見ていると死角になる場所や外から見えない収納が非常に多いことに気付いたのです。同時にFさんが適当に物を置いているのではなくきちんと考えて一定の場所に片付けているのだと知りました。

部屋の環境整備

 まずFさんの部屋にある収納ケースをプラスチックの透明のケースに変えました。今までは外からは見えないため、中に何が入っているのか開けないと分かりませんでしたが、これならば一目で分かります。他にもタンスと壁の隙間を無くすことで、その隙間に物を置けなくしました。

 これだけでも行動に変化が出てきました。自室から物を探す声が聞こえてきたため聞き耳を立てていると自分で見つけたような声が聞こえてくる事もありました。部屋の環境整備をするだけでも症状に変化が現れるようになるのです。

 物盗られ妄想は認知症の症状としてはかなり多いです。薬で抑えることは可能ですがそれにより別の問題が出て来るケースも珍しくありません。薬で行動を抑えることでぼーっとすることが多くなり、下手すると認知症が進行してしまうかもしれません。ですので、薬を飲ませる前にすることは部屋の環境をすっきりさせ、分かりやすい配置にする。まず、この対応を行いましょう。

 それでも物盗られ妄想が改善しない場合にはやはり、一緒に盗られたと主張する物を探すことになりますが、職員が見つけても「見つかりましたよ」と言わない方が無難です。職員が先に見つけると「やっぱり、お前が盗ったんだな」となる場合があるからです。ですので、先に見つけても、認知症の人をさりげなく誘導して自ら見つけてもらうことが大切です。

[参考記事]
「収集癖、物盗られ妄想のある認知症利用者に対する対応」

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