介護施設でも看取りをするので、施設では何人もの方が亡くなっていますが、病院に比べて不思議なほど怪談話の類はありません。さすがに皆さん天寿を全うされて成仏されているということでしょうか、そんな真夜中に超常現象に会うことが少ない介護施設での仕事ですが、恐ろしい現実に出会うことは多々あります。
恐ろしい現実とは
介護士が恐怖に感じることの上位5位以内に必ず入ること、それは丑三つ時に起きました。
介護施設では夜は夜勤者がトイレ介助やおむつの交換、体位変換をしますが、コールがある時や決められた時間以外は、何かが起きない限り部屋に行くことはあまりありません。
そう、何かが起きない限り・・・真夜中2時、巡回をしているとある部屋から、物音がしました。その部屋の利用者であるNさんはかなり認知症の進んだ方、また夜中に目を覚ましているのだろうと、室内の様子を確認するために、少し扉を開けた瞬間、かなり強い便臭がしました。そしてベッドの上ではNさんが何やら手を動かしています。
私はこの出来事の全てを察して、呆然としてしまいました。介護士を恐怖のどん底に叩き落す、弄便(ろうべん)、つまり「便いじり」です。これは認知症による症状です。おむつの中の大便を触り、おむつから取り出していたのです。手が便で汚れていることは当然ですが、その手でシーツや布団、部屋の壁等あちらこちら触るため、そこもかしこも便がついています。そして、顔も触るので、便が口の中に入っていました(食事中の方、すいません)。
介護士は、仕事上、大便には慣れていますが、さすがに弄便に遭遇すると、たじろぎます。一瞬、あたまの中が真っ白になった私ですが、気を取り直し、完全装備してこの便まみれの状況に挑みました。
弄便に対する対応
Nさんに限らず、このような状態のときには軽い興奮状態なっているので、介護士が近づくと、その便を握りしめた手で触れてきます。ですので、まずは手を拭いてこれ以上、便が広がらないようにします。
次に顔を拭いて口の中を確認します。口の中に便がなくても口腔ケアシートで拭きます。この時に指をかまれた先輩もいます。次にベッドの上に防水シートを敷いて、着替えをしますが、当然体のあちらこちらに便が付いていますので、服を脱いだ時に、蒸しタオルで全身を拭くことになります。着替えが終わると、車いすに移ってもらい、その後、シーツの交換、部屋の掃除と続きます。1人でこれだけの作業をするのは、かなりたいへんです。しかしこの重労働も応急対応でしかありません。
翌朝、便の拭き残しがないかチェックしながら 念入りに口腔ケアと清拭を行い、居室の清掃、衣服の消毒・殺菌・洗濯、看護師による体調確認、報告書の作成とまさに介護士にとっては遭遇したくない出来事です。
便いじりは減らせます。
こんな弄便の話を書くと認知症の人はいつも変な行動を起こすと思われるでしょう。でも、もしあなたの下着の中に得体の知れないものが入っていて、それがとても不快だったらどうしますか?普通はその正体を確かめて、取り除こうとすると思います。進行した認知症の人は、自分のおむつに中にあるのが大便だとわからないのです。だから、おつむの中の得体の知れないものを手で触って確認しようとし、さらには不快なものを取り除こうとするのです。そして、手に付いてしまったその不快なものを拭くために壁やシーツなどに擦り付けているのです。
弄便(便いじり)を減らすには、おむつに排便したことに早く気が付いて、おむつを交換すればいいのです。
反省
そんな介護士泣かせの弄便ですが、昼間は介護士の人数も多く、目も行き届いているで、仮に利用者がおつむの中に手を入れて便を触っても、ここまで拡大することはありません。
通常は腸が活発に動いていない夜間帯に排便をすることはそう多いことではありません。夜間の排便は、体調不良や下剤の服用、昼夜の時間の逆転等が要因であることが多いのです。そんな要因が見られたときは、夜間帯の排便を予想しておくことが大切なことだと思います。
介護職にとって恐怖の弄便、でも、認知症により便なのか何だか分からない物体がオムツの中に入っていたらそれこそ恐怖でしょう。一番不快なのは利用者自身です。健康上も汚れたおむつを長時間そのままにすることは大きな問題があります。
利用者をしっかりと見つめ、変化を見逃さず、起こることを予想することも介護職の役割といえます。自分の未熟さを痛感した一日でした。