認知症を完全に治す方法は未だにありません。認知症には脳の器質的な変化が大きく関わっているので、これからもそう簡単には治せないと思います。一度死んだ脳細胞は皮膚のようにほとんど復活しませんので、将来の再生医療に期待するしかないでしょう。実際に認知症のための再生医療の研究はされています。
ですので、今のところ認知症の進行を遅らせることしかできません。治療法には大きく分けて薬物療法と非薬物療法(リハビリテーション)の2つがあります。今回は非薬物療法の一つであるリハビリテーションに関して、その必要性について解説していきます。
1.認知症高齢者に対するリハビリテーションの必要性
医療や介護の現場ではリハビリテーションは「病気や怪我により困難となった状態を元の状態に近づけるということ」を指します。このことから「完全に元の身体の状態に戻す」のではなく、「その人に合った生活に近づけること」を目的とします。
前述の通り、リハビリテーションは認知症の根治方法ではありません。認知症の進行を遅らせる事と、症状の維持や緩和、その人らしさやその人らしい生き方の支援が主になります。
2.認知症高齢者に対するリハビリテーションの種類
実際によく行われているリハビリテーションには様々な種類があり、今回はその中の3つについて解説していきます。
1.回想法
回想法とは1960年代にアメリカの精神科医であるロバート・バトラー氏が考えた方法です。懐かしい写真や音楽、馴染みある家具や日常生活用具を見たり、聞いたり、触れたりすることで過去の経験や思い出を話し合う心理療法です。
認知症高齢者において散見されるのが記憶障害です。しかし、アルツハイマー型認知症の高齢者に関しては短期の記憶よりも遠い過去の記憶は保たれていることが少なくありません。これは短期の記憶が海馬に保存されており、アルツハイマー型認知症により最初に損傷を受けるのが海馬と言われているからです。海馬が障害されることで新しい記憶を作り出すことが困難になります。そのため、アルツハイマー型認知症の方は新たな活動や体験を記憶することは極めて困難です。それに対して長期記憶は大脳皮質に保存され、すぐに失われることはありません。
以上のことから過去の保たれている記憶を元に行われるのが回想法です。
実際に行う回想法を例に挙げると、ある認知症高齢女性がいたとします。事前にこの女性の生活背景を聴取します。この際に触れられたくない記憶、本人にとって嫌な記憶も聴取しておくと良いと思います。
例えば幼いころから編み物が好きで戦後間もないころにも編み物で生計を立てていた。さらに最近まで編み物教室を開いていたとしましょう。編み物を提示し、編み方や編み物に関連した記憶を話します。また、編み物という活動を通して他の認知症高齢者を巻き込み、集団を広げます。編み物という活動を通して他者交流を促すことで活動性や自発性、集中力の向上などの脳の活性化が促され、認知症の進行予防につながります。また、他者との関わりにより不安感や孤独感を軽減し、認知症高齢者に多いうつ症状の軽減にもつながるでしょう。
2.リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)
リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)とは、今は、何年の何月何日なのか。季節は何か。などといった具合に時間や今いる場所が分からなくなる見当識障害を解消することを目的とした訓練の一つです。
実際の方法としては認知症高齢者の日常生活の中で季節や時間、日付などに注意を向け、見当識を促していきます。例えば「もう8月ですので、よさこい祭りが始まりますね」とか、「もう、12時ですので、お昼ご飯ですね」など、年月や時間を会話の中に入れて、会話を行います。
3.運動療法
認知症高齢者のためのリハビリテーションの一つに運動療法があります。認知症高齢者における運動療法の目的としては筋肉量の低下による寝たきりの予防や脳機能の活性化です。
加齢に伴う筋肉量の低下で転倒や怪我をすることも考えられ、その結果寝たきりになることもあります。そのため、運動療法による身体機能の維持を図ることで転倒予防にもつながります。また、体を動かすことで脳の活性化につながり、認知症の進行予防が期待できます。