老人施設に入居し、夜なかなか眠れずに、毎晩廊下を歩き回る認知症のGさん(80代前半男性)の話をしたいと思います。
■夜中に起こる徘徊の問題点
Gさんは寡黙な男性で、普段からあまり人と積極的に関わることがありません。介護職員が話しかけても、いつも仏頂面をして返事は片言です。人を拒絶するような雰囲気をまとっているため、周りの入居者たちもそんなGさんを徐々に避けるようになり、ますますGさんは人と会話することが減っていきました。
そんな調子なので、Gさんは昼間でもイスに座りながら寝てしまうことが多く、逆に夜になると長く眠ることができずに、夜中に自分のベッドを離れて廊下を歩き回ります。つまり昼夜が逆転している状態で徘徊しているのです。
施設の安全対策で、他の階には行かれないようになっているので、Gさんが勝手に施設の外に出てしまう心配はないものの、誰も付いていないときに廊下やトイレで転んで怪我でもしたら大変です。
Gさんが夜中に歩き回っているのを見つけると、部屋へ戻るようにうながしたり、それが無理な時は目の届く場所(談話室など)でお茶を飲んでもらうなどしてしばらく様子を見たりしていましたが、夜中は職員の数も減るため、Gさんばかりに気を配っているわけにも行きません。
Gさんの夜中の徘徊は施設内でも悩みの種でした。
■認知症高齢者はなぜ徘徊をしてしまうのか?
そもそも、なぜ認知症の人は徘徊をするのでしょうか?
もともと人は高齢になると何らかの睡眠障害を抱えるケースが多く、認知症になるとそれが徘徊などの問題行動に繋がりやすくなると言われています。
例えば、夜中に目が覚めてトイレに行こうと歩いているうちに、その目的自体を忘れてしまったり、迷ってしまったりして、延々と歩き続けてしまうケース。
また、睡眠障害によって生活リズムが狂ってしまい、昼夜が逆転して夜に寝付けなくなることから、ベッドで大人しくジッとしていることができずに徘徊してしまうケース。
Gさんの場合も、日中によく居眠りをしていることから昼夜が完全に逆転してしまっているようでした。
医師の診察も受けましたが、最初から安易に睡眠薬に頼るのではなく、まずは日中の職員による働きかけによって改善をうながして行こうということになりました。認知症の人に安易に睡眠薬を処方すると余計ぼーっとするなどの症状が現れ、活動量が落ちる可能性があります。
■徘徊に対する対応
夜にしっかり眠れない原因としては、他にも、どこかが痛むなど体に関する問題や、暑いとか寒いなどの睡眠環境に関する問題があります。
まずはGさんが夜眠れない原因をじっくり探ってみて、それから対応を考えることにしました。
認知症や元の性格のせいで、なかなかコミュニケーションを取るのが難しいGさんですが、根気強く会話を試みていくうちに、どうやら体や睡眠環境の問題ではなさそうなことが判明。
やはり、昼間の居眠りが夜の徘徊を引き起こし、夜に活動するために昼間に眠くなって寝てしまうという悪循環に陥っているのだろう、ということになりました。
そこで、日中の居眠りを減らす、昼間の活動力を増やすなどの対応をすることに。
具体的には、以前よりも職員による声掛けを多くし、これまでは居眠りをして参加していなかったレクリエーションや体操にもできるだけ参加してもらったり、Gさんが興味を持ちそうな話題を扱ったクイズをしたりなど、Gさんに日中はなるべく起きていてもらい、夜は自然に眠れるよう工夫をしました。
最初は面倒くさがっていたGさんですが、だんだんクイズに答えるようになったり、体操にも参加してくれるようになり、居眠りをすることが少しずつ減って行きました。
すると、以前はほぼ毎晩のように徘徊をしていたのが、徘徊をしない日が出てくるようになり、Gさんの夜中の徘徊には日中の行動が大きく影響していることがはっきりしました。
■最後に
まだ完全に夜中の徘徊がなくなってはいませんが、いい方向へ向かっている手応えを感じています。
夜中の徘徊には、日中の過ごし方が大きく関わっていて、職員の働きかけ次第で、ある程度は防げることが分かりました。
職員の工夫で、日中は刺激のある生活をしてもらうことで昼夜逆転を防ぎ、Gさんの夜中の徘徊をもっと減らして行かれるように頑張っている途中です。