Aさん(女性)は旦那さんが無くなってからの10年間、自宅で生活をしていましたが、記憶障害や物盗られ妄想などの認知症の症状が出るようになっていました。
特に問題なのがお薬の管理です。今まではしっかりと薬の管理を訪問看護にしてもらい、自分で服用する事が出来たのですが、飲んだことを忘れてしまい2度飲んでしまったり、「効き目が弱いから」と重複して飲まれている事も判明しました。
このまま一人での生活は難しいと家族が判断し、有料老人ホームに入居されました。
入居当時は
入居当時は帰宅願望が聞かれたり、部屋がどこにあるのかわからない様子でしたが、2週間程度で落ち着かれるようになり、自室を自宅として認識し、自力で居室まで行く事も可能になりました。
元々他者との交流が好きな方で、日中はフロアで他の利用者の方とお話をしたり、レクリエーションへの参加等も積極的にされていました。
ただ、夜間帯になるとどうしても不穏になってしまう事があり、対応方法について話し合いを重ねていました。
薬が欲しいと訴えが続く
Aさんは高血圧・糖尿病・不眠症の病気を患っており、5年前に脳梗塞も起こしています。ですので、薬の量は多く、職員で管理をし、食後や寝る前等必要な時間にお渡しをしていました。しかし夜間帯に渡す薬に限って、服用した事を忘れてしまいます。
普段の生活では「お風呂に入ってない」等と話された時なんかは、職員が「入りましたよ」と伝えれば、すぐに納得してくれるのですが、薬の事になると人が変わったように、「薬を飲んでいない」「薬を飲まないと死んでしまう」等と強く訴えってきます。職員が「飲みましたよ」と伝えても、まったく理解しようとしてくれません。
この状態を何とかする為に、職員間で話し合いを行いました。そして薬を飲んだら空袋をそのままAさんの居室の机の上に置いて対応するようにしたのです。しかしAさんは「誰かが私の薬を飲んでいった」と不穏になってしまう為、状況は変わらず、「薬が飲めないと眠る事ができない」と不眠が続き、昼夜逆転を起こしてしまう状況になってしまいました。
対応方法について
薬に依存している利用者の方は多くいて、入居施設に入ながら薬の管理はどうしても自分でしたいと希望したり、看護師での管理になっているのが不安で市販薬を購入してきたりする利用者の方なんかもいます。
今回のAさんの場合にも、薬を自己管理したくてしょうがない利用者です。しかも認知症があるので、飲む事を忘れてしまい、続けて飲んでしまうようなケースが非常に心配です。
こんな時には偽薬を利用しましょう。偽薬とは、薬に似せた気休めの物です。乳糖等が使用されており、当然体に影響を与える副作用がありません。
薬に依存している方は、薬を自分の手元で管理している事が一番の「薬」になるのです。それを取り上げてしまうと、不安感が強くなり、他の事でトラブルになりかねません。ですのでAさんにはこの偽薬を渡して様子を見てみました。Aさんにとっては精神安定剤のようなものですから、持っているだけで安心する事でしょう。
その後
夜間の薬を職員が対応して飲んでもらった後に「薬を飲んでいない」という訴えがあった場合には、「お部屋にありますよ」と偽薬を部屋に置いて対応しています。
夜間帯でどれくらいの偽薬を服用されるのかを確認した所、1~2個は服用していました。そして数週間すぎると、偽薬を服用しない日も出てきました。Aさんにとっては、薬がある事で安心して眠れるようで、昼夜逆転もなくなったのでした。
[参考記事]
「[認知症の事例] 偽薬を用いた対応で睡眠できるように」